第二十九話
咲子先生が涙を流した日から三日後の日曜日。
オレたちは、陽人たちに誘われてグループデートとすることと相成った。
場所は、指定で遊園地。
なんでも、坂下さんが無性にジェットコースターが乗りたくなったということで、「それじゃあ一緒にどうか」ということになったんだけど……。
「坂下さん、ジェットコースター乗るの?」
「ちょっと陽人君! 三田村君が私の身長が低いって、あからさまに失礼なこと言ってるのだけど、殴っていいかしら?」
「お、おいっ! 誠一、優実の身長の話はするなとあれほど……」
「いや、だってさ……」
「三田村君」
「……はい?」
「あんまりズケズケ言うなら、グーでバッキーンよ?」
「も、申し訳ありません」
シャレにならねぇ~っ!
どうやら、坂下さんは本気で怒ったらしい。その証拠に見せつけられた二の腕には、女子にしては似つかわしくない力こぶができている。
きっと毎日重い吹奏楽器を持って演奏しているからに違いない。
「あまり人の気にしてること言っちゃダメですよ」
おかげで春森からも釘を刺される始末。
ううっ、地雷踏んじまったよ……。
「ま、まあ……。とにかく、今日は遊園地を楽しみ来たんだ」
「そうよ、そうよ? 人の気にしていることをハッキリというお馬鹿さんのことは放っておいて、みんなでワイワイ楽しみましょ?」
「……オ……オレ……お馬鹿さん……」
「三田村君。優実ちゃんの言っていること、いちいち気にしちゃダメです」
「さあさあ! レッツゴーよ!!」
なんかいつの間にか仕切られてる……。
ということで、半ば坂下さんに引っ張られる形で遊園地デートを開始。組み合わせは、もちろんオレと春森、それから陽人と坂下さんのペア。
でも、そんな中で陽人からある提案をされる。
「なあ、誠一。最初はみんなで遊ばないか」
「構わないけど?」
「じゃあ、そういうことで。ある程度時間が経ったら、別行動にしよう」
「わかった」
「とりあえず、どこから行く?」
「ん~そうだなあ。バイキングなんてどう?」
「OK。バイキングだな」
まあ、確かに全員で遊ぶというのも今回の目的ではあったしね。
陽人の提案は理にかなっていると言える。
それにその横で、「あっち行きましょ」とか「あれに乗りたい」とわがままな子供みたいな事をいう坂下さんを抑える意味もあるみたいだし。
……ぶっちゃけ、そっちの意味合いの方が強そう。
ともあれ、オレたちはバイキングに乗ることにした。並びこそしたが、順番はすぐに回ってきてあっという間。
オレたちは左右に大きく揺れ動かされる感覚を絶叫と共に楽しんだ。
お次は、フリーフォール。
意外にも高いところが苦手だという陽人が同乗を渋ってたけど、坂下さんに押し切られる形で乗るハメに。
まあ、終わったあとの惨状は言うまい。
その後は、ゴーカート、急流すべり、回転ブランコ――と、みんなで楽しめそうな乗り物に乗りまくり。
連戦だっただけに疲れちゃった。
それから、まもなく休憩に入ることにして、オレたちはフードコートの一角でくつろぐことにした。
ドリンクとフードは各自で購入。
そんな中、坂下さんが急にペアを変えようと言い出した。
「……提案なんだけど、たまにはカップリングを変えてみない?」
そんな中、坂下さんが急にペアを変えようと言い出した。
突然のことに「なんだろう」とは思ったよ? でも、坂下さんなりに考えがあるのかもしれない。
オレは、その考えに耳を傾けることにした。
「急にどうしたの?」
「うーんとね。なんかいつも同じペアだとつまらないじゃない?」
「いや、でもこれダブルデートなんでしょ? 今日、みんなで一緒に行こうって言い出したのは坂下さんじゃないか」
「そうなんだけどさ……。お互いに普段話をしない人同士でもペアを組んでみようって思ったわけ」
「まぁ~た唐突にぃー」
「別にいいでしょ!! 私も三田村君とふたりっきりで話する機会なんてないんだしさ」
「……言われて見ると確かにそうかも」
「どうせ最後はお互いのカップル同士で締めるんだし、後半戦はカップル入れ替えで行動してみない?」
「面白そうといえば、面白そうなんだけど……」
春森や陽人たちの気持ちはどうなんだ? どうにも坂下さんの独善で決まってしまいそうな気がする。
オレは各々の顔を眺め、「これでいいのか」という視線を送ってみた。
「オレは別に構わないよ。春森さんとは、一度サシで話がしてみたかったし」
「わ、私も鵜木君と話をする機会がなかったので……」
「春森、大丈夫? コイツになんかされたりしたら、オレは気が気でないよ」
「おいコラ、誠一」
「ナンデスカ? ヒロトクン」
「少しは信用しろ。あと棒読みで名前を呼ぶのはやめろ」
「だってさ! 春森が……」
「彼女が大事なのはわかるが、オマエ以外の人と話す機会までつぶしてしまったら元も子もないじゃないか」
「陽人の言ってることはわからなくもないけどさ……」
「だったらいいだろ? それに透明化のことで俺自身も春森さんに聞いてみたかったことがあるしな」
「陽人が?」
「ああ、ちょっとな」
なんだろう……胸騒ぎがする。
少し心配ではあるけど、事情が発覚して以来、陽人と坂下さんにはいろいろと気を遣わせてしまっているのも事実。
こういう機会じゃないと、お互い話したいことも話せないんだよなあ。
「……わかったよ。陽人、オマエを信用する」
「悪いな。話自体はそんなに深刻なないようじゃないから、あとで春森さんから直接聞いてみてくれ」
「ああ、そうする」
「んじゃあ、そういうことで! 私と三田村君がペアで、もう一方は陽人君といっちゃんがペアってことで各自好きなところ回っていいよ」
「……話に割り込んできたと思ったら、急に仕切らないでよ~」
「別にいいじゃない? そんなに深刻な話じゃないんでしょ」
「そりゃあ、そうだけどさ……」
「信用するって言ったんだから、男らしくドーンと構えて信用しなさいよ」
「あ~もう! わかったよ」
こうして、オレたちは二手に分かれることにした。
春森、ホントに大丈夫かな……って言っても、聖人君子のような陽人がそんなゲスいことするはずがないし。
……でもでもなぁ~心配だなぁ~。
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