第二話
一日というのは、あっという間に過ぎていく。
午前の授業を受けたと思ったら、あっという間に放課後。
ホントに一日というのは早いもんだ。オレは特に部活に入っているわけじゃないから、放課後は図書委員である春森を待って帰るだけ。
でも、ただ待っているだけじゃつまんないわけで、こうして図書室でラノベを読みあさるのが日課となっていた。
「この棚の整理が終わったら帰れますから」
終わりかけになると、いつも春森が声を掛けてくれる。
だから、待つの苦じゃない。
……むしろ、楽しいぐらい?
まあ、初めての恋人で浮かれてるってのもあるかもしれないけどさ。オレにとって、これが唯一の楽しみなわけですよ。
春森が棚の整理をして、オレは気長に椅子に座って本を読む。
きっと付き合う前だったら、考えられない光景よなあ。
「お疲れ様です、春森先輩」
しばらく本を読みふけっていると、唐突に聞き覚えのある声が聞こえてきた。後ろを振り返ってみると、背後に眼鏡の女の子が立っていた。
春森と同じ図書委員で一年生の女の子だ。一見、お堅そうに見える彼女だが、話してみると案外明るくて気さく。
オレとも気軽に話してくれるし、『男は飢えた獣』なんて偏見を抱いていない。どこにでもいる女の子って感じ。
「後のことはやっておきますので、先輩は三田村先輩と一緒に帰っていいですよ」
「……そんな、悪いよ。千夏ちゃんひとりに任せるなんて先輩失格だよ」
「気にしなくていいですよ。せっかくふたりで帰ろうと思って、三田村先輩はああやって待ってるんですし」
実際、気を遣ってくれるからスゴくいい子だよなあ。
ホント、惚れ惚れしちゃう。
春森と付き合ってなかったら、千夏ちゃんを彼女にしてたかも……あっ、でもこれはここだけの秘密ね。
こっちを見ているふたりには、口が裂けても言えないことだし。
「あっ……。先輩、いまなにかヘンなこと考えませんでした?」
「な、な、なんにも考えてないよ――ただ、2人ってとっても仲がいいんだなあって」
「そうですか? 私はおふたりの方が仲いいように見えますが」
「オレたちは恋人なんだし、これぐらい普通だって!」
「フフッ、そうですね」
「じゃなくて、先輩と後輩って意味で仲がいいってこと」
「あ~そういうことですか」
「……で、実際のところはどうなの?」
オレがそう言うと、千夏ちゃんは突如として本棚の方を顔を向けた。
なにかと思って同じ方角を見ると、目線の先に春森がいた。たぶん、オレに聞かれて、一瞬答えに迷ったんだと思う。
「うーん、そうですね。春森先輩は、図書委員になったばかりの頃から手取り足取り教えてくれましたし、私にとっては一番話しやすい先輩でした」
「他の子は話しにくい?」
「そうじゃなくて、私が困ってるときに率先して教えてくれたのが春森先輩なんです」
「へえ、意外だなぁ~春森っておとなしいから、そういうこと積極的にしないと思ってた」
「そんなことないですよ」
「あれ? そう?」
「だって、他の一年生の面倒も積極的に見てますし、私にとって春森先輩に憧れというか、敬虔の念を抱く姉のような存在なんです」
「なるほどね。春森は、千夏ちゃんにとって尊敬する先輩なんだ」
「ええ。ですから、私も自然となついちゃって」
「だけど、一年の時の春森はどちらかというと、ずっと独りで本を読んでるような女の子だったよ?」
「えっ、春森先輩がですか!?」
「オレからしても、未だに信じられないよ。まあ、それもクラスの坂下さんって子が引っ張ってくれたおかげなんだけどさ。あのまま助けてもらえなかったら、春森は本の中に引きこもって、完全に高校デビュー失敗だっただろうね」
「そんなことがあったんですか……なんか信じられません」
「それでさ。結局千夏ちゃんから見て、春森はいいお姉さんって感じなの?」
「う~ん、どうでしょう? 確かに私のお姉ちゃんだったらいいなぁ~とは思います」
「違うの……?」
「ええ、そうです。でも、やっぱり春森先輩は先輩なんですよ」
「よくわからないなあ……。なにが違うわけ?」
先輩は先輩って、つまり尊敬に値する人物ってこと? それとお姉ちゃんっていう概念はどう違うんだろう?
その勝手がわからず、おもわず首をかしげちゃった。
けど、千夏ちゃんはひとり満足したっぽい。オレがわからないのを横目にクスクスと楽しそうに笑ってた。
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