第三話

 ポケットの中のスマホを取り出す。

 時刻は、午後六時――。

 目的は言わずもがな、SNSでメッセを発信するためだ。帰宅して、着替えて、ちょっと夕飯前に彼女にメッセージする。

 なんだかいい感じに落ち着く。

 いま頃は春森はなにしてるんだろう……。

 自分の部屋でくつろいでいるのかな? もしかして、勉強をしているんじゃないかって考えると楽しくて仕方がないじゃん。

 だから、そういうことを思いながら、メッセージを流すのは格別だ。

 さて、春森はいるかなっと――って思ったけど、いくら待てども期待するようなレスは返ってこない。



「お風呂入ってる……のかな?」



 もしかしなくても、そういうこと?

 ならば、少し待って掛けてみるしかない。ということで、オレはベッドから起き上がってテレビの前に座り込んだ。

 え? なにをするかって?

 そりゃあ、もちろん決まってるじゃん――目的はただ一つ。

 暇つぶしだ。

 いまオレの目の前にはプレイステージ4がある。つまり、コイツで遊んで暇を潰そうというのだよ。まっ、コイツをやっていれば、きっと春森の方から電話を掛かけてくるだろうって目論見なんだけどね。

 オレはテレビ台の引き出しを開けると、中から適当なRPGを取り出してプレイすることにした。

 もうこうなったら、気長に待つしかない……そう思っていた矢先のことだった。


《ジーッ……》


 不意に背後からただならぬ視線を感じる。その視線がスゴく突き刺さるぐらい痛くて、オレはすぐさま後ろを振り返っちまった。

 すると、部屋の扉の隙間――その物影から明姉が顔を覗かせていた。

 我が姉、三田村明菜である。

 さっき追い返しちゃったから、仕返しのつもりなんだろう。明姉は構って欲しいあまり、悲しくもこちらの様子をずっと窺っていたのだ。



「誠ちゃんがひとりでゲームやってる」

「ハァ~っ!? 別にいいじゃん、好きにさせてよ」

「いいなぁ~、お姉ちゃんも一緒にやりたいな」



 あ~もうっ、この姉は。なんて七面倒くさいんだ。時折、どっちが年上なのかわからなくなる。



「……わかったよ。姉ちゃんも一緒にプレイしよう」

「わーい! 誠ちゃん、大好き!」

「はぁ~これじゃあ、春森から電話が掛かってきても出りゃしない」

「ん? どなた?」

「友達だよ、友達! 姉ちゃんとゲームやるとてんやわんやだから電話できないってこと」

「えーっ!? いいじゃん、いいじゃん。お姉ちゃんは、誠ちゃんのお友達が電話を掛かけてきても気にしないよ?」

「こっちが気にするっつーの。いいから、一回だけプレイしたら部屋から出てってね」

「そんなぁ~!! お姉ちゃん、誠ちゃんともっと遊びたい」

「子供じゃないんだからさぁ~勘弁してください」

「ぶぅ~最近誠ちゃんが冷たいよぉ」

「誰か助けて」


 そんなときだった。


 ――プルルルルルル……。


 突然、着信音が鳴り響く。

 同時に掛けてきた相手の名前が表記される――春森からの電話だ。

 オレはすぐに気付いて、慌ただしくスマホを手に取った。



「もしもし、春森?」

「…………」

「あれ? 春森、どうしたの?」



 だが、おかしなことに春森からの返答がない。

 代わりに聞こえてきたのは、むせび泣く女の子の声。これはもしかして……いや、もしかしなくても春森の声で間違いない。

 ……異常事態発生?

 オレはそのことを直感し、電話の向こう側の相手に呼び掛けた。



「春森……? もしもし?」



 でも、出ない。

 いったいなにがあったっていうんだ。



「――三田村君……助けて……」



 ようやく1つの言葉が発せられたのは、ほんの少し待ってからのこと。いままでに聞いたことのない春森の悲痛な声に驚かされちゃった。

 でも、それってなにかあったってこと?

 春森にトラブル?

 それを考えると、どうにも胸騒ぎがする……。



「どうしたのっ!? なにかあったの?」



 と感情任せに尋ねる。

 でも、春森はまだ電話の向こうで泣いているらしく、なかなか答えてはくれなかった。



「――探して」

「えっ……?」

「私を探してください、三田村君」

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