第四話

 夜の学校って、正直に言えば苦手。

 なんか出そうって雰囲気醸し出してるじゃん? だから、 ビビりのオレにしてみれば、実質的な遊園地のお化け屋敷に思えてるわけ。

 じゃあ、なぜここにいるかって? まあ、それを説明すると、あの後春森から聞き出した居場所が学校だったからだ。

 でも、一緒に下校したはずなのに、まさか学校に隠れてるなんて……。

 きっと、それには事情があるんだと思う。

 オレは守衛さんに断って、閉館した校舎の中に立ち入った。校内は日が落ちたせいで、完全に闇に包まれている。

 ……ってか、どこを探せばいいんだ?  春森にメッセージを送っても返ってこないし、探しようにも探せないじゃないじゃん。

 仕方ない……。

 ここは、校舎の隅々を探して歩き回るとしますか。ということで、オレは校内をくまなく探しあることにした。

 一階から二階へ、二階から三階――と順を追って探す。けれども、探しても、探しても、春森の姿はどこにも見つからない。



「春森、いったいどこ隠れちゃったんだろう?」



 こうも皆目見当もつかないとなると、捜索は難航しそう。しかも、夜だから真っ暗でなにも見えないし、声も反響するから不気味なんだよなあ。

 そろそろ探し始めてから20分が経過する。

 あらかた探したんじゃない勝手ぐらい探し回ったけど、春森は見つからない。こうやって歩くのも段々とツラくなってきたよ。


 ――ガタガタッ!!



「なっ、なに!?」



 と、西棟三階の空き教室で聞き慣れない音を耳にする。

 それは突然の出来事ですっかりビビっちまった。



「だ、誰っ――?」



 こんなときにやめてくれよ。

 ただでさえ、幽霊とか、ポルターガイストとかそういうのが苦手だってのにさ。しかし、なにも確認しないというわけにもいかない。

 小声で、ゆっくりと、音を立てず、引き戸を静かに大きく開ける。



「失礼します」



 けれども、肝心の室内には誰もいなかった。それどころか、空き教室は机の一つも置かれていない伽藍堂とした様子をしているし。



「な、な、なんだぁ~……。誰もいないじゃんか」



 まったく、脅かさないでくれよ。

 本当にいるんじゃないかって、こっちはヒヤヒヤしたんだぞ。大方、モノが落ちたか、微震でも起きたんだろうけどさ。

 と、とにかく、早く春森を探しに行かないと……。オレは扉を閉めて、何事もなかったかのようにこの場を去ろうとした。



「三田村君」



 ところがである――。

 あろうことか、突然室内から誰かのかすかな声が聞こえてきた。オレがそのことに気付いたときには、すでに扉を引いてしめた後だった。

 でも、聞こえたのは間違いない――しかも、それは春森の声だ。

 オレはその場で再び扉を開けて確かめた。



「誰かいるの?」



 と、顔だけを空き教室に突っ込んで中を覗き見る。けれど、そこには人なんかいるはずもなく、やっぱり殺風景な光景が広がっているだけだった。



「……おっかしいなぁ~?」



 さっき確認したときは、誰もいなかったんだぜ? にもかかわらず、誰もいない室内に誰かの声がするって変だよ。

 奇妙な出来事に内心ビクビクしながらも、勇気を振り絞って教室へと忍び入る。



「もしかして、春森? どこにいるの?」



 シーン……。

 空き教室は、そんな擬音が聞こえてくるかのように静まりかえっている。さらに言えば、オレの声だけが室内に反響していて、不気味さを醸し出していた。



「やっぱ、怖いな。早くウチに帰りたい」



 とはいえ、声の正体を確かめなければ意味がない。オレは姿なき声の主の正体を確かめるべく、ゆっくりと窓際の方へと近付いていった。



「……三田村君?」



 そんなときだった――。

 再び姿なき誰かの声を耳にする。

 その突如として上げられる声にオレを飛び上がらせ、ビビらせちまうほどに強烈だった。



「ギィャャァヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤ~!!」

 おかげで大絶叫。

 死ぬんじゃないかって勢いで飛び上がっちまったよ。

 こんな恐怖、いったい誰が驚かないって言うんだ? おかげで腰砕けになって、その場に倒れ込んじまった。



「たたたた、た、た、助けて! オレなんか殺してもなんの意味もないしっ……!」

「三田村君! 私です!!」

「ギャーッ、なんか幽霊がオレの名前知ってるっ!?」

「とにかく落ち着いてください」

「お、お、落ち着けって無理があ――」



 ……ん? あれ? なんで幽霊が俺の名前知ってるんだ?

 よく考えると、どっかで聞いたことのある声。さらに言うなら、ちょっと前まで一緒にいて、一緒に帰ったような気がする。

 もしかして、もしかしなくても……?



「……はる……もり……?」



 冷静になって考えた途端、オレはその名前を自然と口にしていた。

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