第七話
ガコンッ!
……と、複数のピンが目の前で倒れる。
それを見た瞬間、オレは声を上げて驚いた。
「スゴいよ、春森。またストライクだ!」
今日は、春森とのデートの日。
五年前にオープンしたアミューズメントパーク内にあるボーリング場で、ボーリングを楽しんでいる。
そんな中で驚かされたのは、春森のボールさばきがプロ級だってことである。
まるで時代劇の終幕にバッタバッタと悪役をなぎ倒す主人公みたい。春森の出番が来る度、ピンは小気味よく倒れていった。
それに比べて、オレは下手くそ。
春森が一生懸命コツを教えてくれてるんだけど、ぜんぜんダメなんだよねえ。
「あ~あ……。オレも春森みたいに上手だったら、もっといいところ見せられるのに」
「そんな事ないですよ。三田村君もじゅうぶん上手ですよ」
「フォローはうれしいけど、自分としては納得がいかないなあ」
「そうですか?」
「こんなところを明姉に見られたら、絶対に笑って小馬鹿にされるに決まってる」
「……明姉?」
「オレの姉ちゃんのこと。その姉ちゃんがずっとここ来たがっててさ、今日はその下見を兼ねて春森と来てみたんだよ」
「三田村君、お姉さんいるんですね」
「まあね。っていうか、どっちが姉で弟かわかんなくなるけど」
「どういう意味ですか?」
「……なんて言うか、オレにべったりなんだよ。姉ちゃんならもっとしっかりして欲しいのに、なぜかいっつも弟のオレに甘えてくるんだ」
「フフッ、それだけ三田村君を好きだって証拠ですよ」
「イヤだよ。オレとしては、ちょっとは大人になって欲しい」
年上の妹とかマジありえん。
とにもかくにも、今日ここへ来たことも秘密――明姉に言ってたら、いまごろ付いてきちゃってたかも。
春森っていう彼女の存在もバレてただろうし、そのせいで「お姉ちゃんのこと嫌いになった」とかワケのわからん御託で駄々こねられてただろうし。
「春森って、本当にボーリングが上手なんだね」
「母に教わったんです。小さい頃は、近所にあったボーリング場によく連れてってもらいました」
「……ってことは、中学生とかになってからもやってたの?」
「読書の気分転換程度にはやってました。最近だと、春休みに優実ちゃんたちと一緒に行って以来でしょうか?」
「なるほどね」
上手な理由も納得がいく。
それから、オレはたちは心ゆくまで共にボーリングを楽しんだ。
ゲームを終えたのは、デート開始から二時間が過ぎた午前十一時。
お昼までまだ時間があるということもあって、オレたちは少しだけ館内を散策することにした。
ちなみにこのアミューズメントパークにはなんでもある。
ゲーセン、ボーリング場、映画館、お化け屋敷……などなど、ごった煮感がぬぐえないけど、本当になんでもあった。
中でも、圧巻だったのはカートレース場!
専用コースが館内をぐるりと一周して回るように作られていたからだ。
「カートレース場なんかもあるんですね」
「ホントだ。モニターで観戦できるようにまでなってる」
「三田村君、見てください。あのモニターに映ってるのコースは水族館の水槽の中を通ってますよ」
「こりゃ迫力あるな。二階から三階に向かって伸びる坂道もあるし」
「スゴいですね!」
「春森、乗ってみる?」
「……いえ、私はこういうのは苦手なので」
「あれ? 結構、意外だね……。てっきりノリノリで楽しむのかと思ってたよ」
「見てる分には楽しいんですよ。でも、実際に乗るってなったら運転には自信がないです」
「そういうもんかな? あのマシンでブーンって、かっ飛ばすのが気持ちいいんじゃん」
と、そんなこんなでアミューズメントパークを一周して終了。
その頃には、もうオレたちの胃袋が音を立てて食事を要求しきっていた。
「あっちにファミレスがありましたから、そこでお昼にしましょう」
「オッケー」
と言うわけで、ここでいったんお昼休憩。
食事を取りながら、春森とおしゃべり。
それが終わったら、デパートの本屋によって、ついでに店内を見回って解散というのが今日のスケジュールだ。
よくよく考えると、トラブルもなく順調にデートコースをこなせてる。もしかすると、今日はこの勢いでファーストキスに持ち込めるんじゃ……?
「三田村君?」
「……あ? ゴメン」
「どうかしましたか?」
「い、いや、ちょっと考え事……」
「考え事?」
「うーん、なんというか今日はどうにか腕が消えたりとかっていうトラブルがないなぁと」
「私も気にはしてましたが、全然そんな気配はないですね」
「どっちにしろいいことだよ! こうして、春森と思いっきり楽しめるんだしさ」
……などと話しているうちに昼食も終わり。
オレたちは、次の目的地であるデパートへと向かった。
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