第二十三話

 六月二十日。

 今日は、大型遊泳施設の解禁日。

 ウォータースライダーあり、流れるプールあり、温泉あり、宿泊施設ありの有り有りのレジャースポット。


 ……そんなところへなにしに来たかって?


 言うまでもなく、遊びに来たに決まってるじゃないか。春森は無論のこと、今日は陽人と坂下さんも一緒。

 陽人と坂下さんが一緒なのには理由がある。なぜなら、あのあと陽人と相談して春森たちを仲直りさせる計画を立てたからだ。

 そして、その手段が全員でプールってわけ。

 みんなで楽しみつつ、仲直りしようというのがオレたちの目論見……のはずなんだけど、到着早々ふたりともぎこちない。

 春森も、坂下さんも、なんだかヨソヨソしいし……。

 これじゃあ、考えた計画が無駄になっちゃうよ。



「な、なあ陽人。大丈夫かなあ……?」

「なにが?」

「あのふたりだよ。雰囲気作りに『水着似合ってるよ』とか言いづらいし」

「悠長なこと言っている場合じゃないだろ? 優実と春森さんを仲直りさせたいって言い出したのはオマエじゃないか」

「そうだけどさあ……」



 なにをどうすりゃいいんだ? ふたりともお互いに明後日の方向を向いちゃってるし、話をするにもとっかかりがないと難しい。

 と、とにかく! どうにかして接点を作らないといけないよな?

 よしっ、まずは坂下さんから!



「――さ、坂下さんはなにかやりたいことはあるの?」

「私? 私は陽人くんとウォータースライダー行きたい」

「へぇ~楽しいもんね」

「そんなことより、いっちゃんの水着褒めなさいよ。どうせ私たちの仲を取り持とうと必死になってるんでしょうけど」

「見透かされてるっ!?」

「そりゃまあね。先週ぐらいから陽人くんとコソコソしてるからわかわるわよ」

「ううっ、だよね」



 バレてた……。

 ま、まあなんとなく想像はついてたけどね。とはいえ、坂下さんに言われたとおり、春森の方もなんとかフォローしなきゃいけないよなあ。

 チラリと春森の方を見る。

 今日の水着は、パレオつきのビキニだ。薄緑の生地に黄色のリボンが付いたどことなく夏っぽくさわやかさを感じる。

 そして、なにより春森の胸――おもわず生唾を飲んじゃった。

 普段は着痩せしてるせいでわかんないけど、今日は間近で見ることができる。

 上着からはみ出しそうなボリューム感。

 正面からの布面積は大きいものの、脇から側部に掛けて布が少なくなる部分は締め付けられたオッパイが反発して今にもポロリとこぼれてしまいそう。そんなモノを見せられてドキドキしないはずがないじゃん?


 ……って、そうじゃなくて!


 いまは春森の水着を褒めることが先決じゃないか。あとで絶対坂下さんになにを言われるか、まったくたまったもんじゃない。



「は、春森。今日の水着に合ってるね」

「ありがとうございます。三田村君も似合ってますよ」

「オレ? オレなんか全然だよ」

「そんなことないです。お似合いですよ」

「アハハッ、そう言われると照れくさいな」



 はぁ~なんかデートしてるって感じ。 慣れてないからわかんねえけど、こういう感じもいいなあ。



「それじゃあ、各ペア別行動ってことで」



 などと考えていたら、急に坂下さんがそんなことを言いだした。



「ちょ、ちょ、ちょっと待って!」

「え? なに?」

「なにじゃなくて、みんなで行動しようよ」

「別にいいじゃない。あとからだって、三田村君たちと遊べるわけだし」

「そうだけどさぁ……。いきなりすぎない?」



 うーん、あからさまに避けて行動するってことだよね?

 オレはすぐに陽人に声を掛けようとした――が、当の陽人は坂下さんの子供みたいに無理矢理引っ張られちまってる。

 これじゃあ、相談するにもできないじゃないか。



「なあ、陽人。オマエはどう思う?」

「わりい。そういうことだから」

「え~っ!?」



 苦笑いを浮かるだけで助けてくれないオレの親友。

 しかも、陽人は手と手を顔の前で合わせて謝罪のポーズを示しただけ。無情にも、我が計略の同士はウォータースライダーの方へと姿を消した。

 残されたオレたちは微妙な雰囲気。


 ……どうすんのさ、これ?


「アハッ、アハハハ……。ふたりとも行っちゃったね」

「……ですね」

「どうしよう? 春森はどこで泳ぎたいとかある?」

「私は三田村君に合わせますよ」

「そういわれてもなぁ~、どうしようか?」



 計画のことで頭がいっぱいで考えてもみなかった。


 ……もういい。


 陽人がいなくなっちまった以上、春森と遊び尽くそう――そうだ、そうしよう。仲直りをするきっかけはいくらでもある。

 とりあえず、遊びながらどっかで話を切り出せばいいしね。



「じゃあさ、あっちの大きいプールに行ってみようか」

「いいですよ」

「ところで、春森は泳げる方?」

「えっと、得意というほどではありませんが、小学生の頃に母のススメで水泳教室に通っていたので人並みには泳げます」

「へえ~意外。いつも本読んでるから、からっきし泳げないのかと思ってたよ」

「三田村君、それはちょっと失礼ですよ」

「ゴメン、ゴメン。なんかオレの中の春森ってそんなイメージだったから」



 と言いながら、会話の場を大型プールへ移す。

 そこでふたりで水を掛け合ったり、隣の競泳用プールで競ったり……とにかく、楽しい時間を過ごした。

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