29話 Noside

「リリアン様!!」


リリアンが気づいた時には既に目の前に迫っていた大きな火の玉。

咄嗟に魔法を発動して防御する暇も、動いて避ける暇もない。


「っ水よ!!」


その場にいた教師が何とか魔法を発動してその火の玉を相殺する。


「リリアン様!リリアン様しっかりしてください!!」


教師陣が叫ぶアンナの声を聞きそちらに向かう。そこには気絶したリリアンがいた。

どうやらリリアンに直撃することは無かったが、ショックは大きかったのか意識を失い、目前まで迫っていた火の玉によって右頬の火傷に加え髪の一部も燃えてしまっていた。


「リアン!!」


「君はたしかストレンジウェイズの…?」


「どいて。僕が治療するから」


集まり運ぼうとする教師を押しのけて駆け寄ってきたのは、先程まで二階の第五保健室にいたアレンだった。


アレンはすぐにリリアンを抱える教師からリリアンを奪って右頬に手を当てる。

魔法を使って治癒をすればたちまちリリアンの頬は痛々しい赤黒い色からすぐに綺麗な白めの肌へと戻る。


しかし、燃えて短くなって焦げてしまった1部の髪は治せないのか、アレンは悔しそうにその髪を撫でた。


「リアンはしばらく第五保健室で休ませるから」


「あ、あぁ…」


「待ってください!」


アレンがリリアンを姫抱きにして校舎へと戻ろうとする。

すると人混みの中からアレンを止める声がして、1人の男子生徒が出てくる。


「俺の魔法が暴走したんです!!その、俺に出来ることは……」


「ない。……わざわざ出てきた度胸は感心するけど今君がするのは僕についてくることじゃなくて魔力が暴走した理由でも探ったら?

君程度の魔力じゃ、あんな大きな初級魔法どうしたって出てこないんだから。」


いつものようにリリアンに向ける優しげな目ではなく、冷たく鋭さを帯びたその視線に怯んだように顔色を悪くする。

苛立っているのか、口数も多い。


しかし、アレンはすぐに男子に興味をなくしたようで腕の中のリリアンに目線を落とす。


「……ごめんね、リアン」


どれに対してかもわからない謝罪。それを呟いてからはアンナやラルドリアの心配する声、教師陣の自分を呼ぶ声、そして周りの好奇の目線すら感じないかのように、一心に保健室に向かう。


「……またシナリオと違う…なんでなのよ!」


校舎へと戻る直前、冷めた目でその黒髪を睨みつけて……

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