36話

「り、リリアンさまぁ

謝りますから許してくださぃ~」


プルプルと体をふるわせて涙目で睨みつけてくるその姿はとても妖艶で綺麗であるが、私はどうして彼女がここまで脅えているのかわからなかった。


「アルフレッド様にはこの前のことは言いません~!だから、だからぁ…」


ふぇ~…と泣き声をあげてめそめそと泣き始めたバンシーさんを見て周りの目が私たちに刺さる。


これではまるで私がバンシーさんをいじめてるようにも見えてくる。

な、なんなのこの人…泣き声は聞こえてくるけど口元は笑ってるから明らかに悪意があるのは分かる。


若干バンシーさんに引きながらも、まわりの誤解をどう解こうか思考をめぐらせていると、隣にいたパートナーであろう男性が私とバンシーさんの間に立った。


「……はぁ、すみませんが私の主も反省しております。今回は見逃してくださりませんか?」


「主…?」


「申し遅れました。私はバンシー様と契約を結んだ魔族のナフラーと申します」


完璧な礼をして、完璧な笑みを浮かべる。しかしそれは能面のような冷たさを持っていて、背筋に冷たいものが通った感じがした。その瞬間、体が動かなくなった。


「……っ!」


何事かと思った。声をあげようとしても声が出ないし、体も動かない。

よく見ればナフラーと名乗る男の目が赤く光っていた。


これまさか……魔法!?でもなんで急に…?


「わ、私にぶつかっといて許されるとお思いなの?私を誰と心得えるの!?殿下の婚約者なのよ!」


はいぃぃぃ!?何を言ってるの!?

いや、言ってるのは私なんだけど、なんで勝手に口が動くの!?


混乱していると、体も勝手に動き出す。

ゆっくりとテーブルに置いてあるジュースの入ったグラスを取る。


あれ、これってもしかしてイベント通りに進んでる!?

やっぱりバンシーさんはヒロインのイベントを乗っ取ろうとしてるの!?


さっきの勝手な発言のせいで周りは混乱状態に近いし、どうすればいいの?!


「そうそう、悪役令嬢は悪役令嬢らしくヒロインの私をいじめればいいのよ

ゲームを壊さないでよ」


小声で聞こえてきたバンシーさんの声。

やっぱりバンシーさんは転生者だ。


その上ヒロインを乗っ取ろうとしてるのも確実だろう。


手は勝手にバンシーさんにジュースをかけようとしてるし、それを止めることも出来ない。


声をあげれないから魔法も使えないし…

誰か助けて…!

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