37話

もうジュースを傾けてかけようとしている直前。そっとグラスが誰かの手によって取り上げられた。


「ダメだよリアン。そのジュースリアン苦手でしょ」


「パーティーで魔法を使うのは確か非常事態以外は禁止されてなかったか?」


「そうだね。禁止事項だよ」


「リリアン様こちらへ!」


後ろから声が聞こえてきたと思えば、ぎゅっと抱きしめられる。安心するその声はアレン君のもので、ナフラーと名乗る魔族の視界から遮られた瞬間、勝手に動いて強ばっていた体が、ずっと力が抜けたように軽くなった。


後ろにはアンナとラルドリアちゃんがいて、横にはアルフレッド王子と、さっき知り合ったセドリックがいた。


……なんかゲームに出てくるキャラクター大集合してない?


アレン君に連れられラルドリアちゃんたちのところに行けば、もう魔族の男から見えるようになっても、体が勝手に動くことは無かった。


「おや、これはこれはアルフレッド殿下にグラン伯爵家の子息様じゃないですか」


「魔族でも俺らのこと知ってんのな。」


「そりゃあ有名ですから」


「そんなことは今はどうでもいいだろう、セドリック。確認だけど、今回リリアンに魔法をかけたのは君かな」


「魔法?はて、なんのことでしょう?

私はそんなものを使った覚えはありません。そんなことより、我が主を助けて頂きありがとうございます。」


「……あくまでも自分らは被害者だと…」


一触即発と言わんばかりの雰囲気が会場内に流れる。周りの観衆たちも固唾を飲んでこちらを見ている。


しかし、体が自由になった今、私はそんなことよりもやらなきゃ行けないことがあった。


「アレン君!違いますわ!私、殿下の婚約者なんかじゃありません!私の婚約者はアレン君ですわ!」


周りの勘違いも解きたいし、何よりアレン君に、私の口から出た殿下の婚約者。という言葉なんか聞かれたくなかった。


いくら魔法で操られていたとしても、絶対に……


「ごめんなさい……違うんです…」


アレン君の腕に抱かれたまま縋り付くように言葉を紡ぐ。感極まって涙すらでてきた。

すると優しく頭を撫でられる。


「リアン、顔上げて…」


「……え?…ん、」


言われた通りに顔を上げると唇にやさしいキスが落とされた。

そしてその後すぐに目元に溜まった涙を軽く舐め取られる


「…なっ!…なぁっ!」


顔に熱が集まって、赤くなってることがよくわかる。それをまるでイタズラが成功したかのような笑みで見たあとぎゅっと抱きしめられた。


「大丈夫だよ。リアン

あれは魔法で操られてたんだから仕方ない……僕は気にしてないから……」


「で、でも…」


「でも…何?」


私が言い淀むと、笑い声とともに優しく頭を撫でられてる感覚がする。

きゃぁーっと黄色い悲鳴が周りで上がる。ちらっと見えたアンナとラルドリアちゃんは顔を隠しながら目元を隠すふりをして手の隙間からちらちら見ていた。


「あーあ、向こうだけで盛り上がってんぜ?どうするよ殿下」


「これじゃあ罰則も何も無いね。

今回は見逃すけど、次こんなことはしないようにね。」


セドリックとアルフレッド王子の声が聞こえてくる。

どうやら、今回は見逃すらしい。


「みんなも、さっきリリアンが言った私の婚約者というのは事実無根である。

それがわかったら引き続きパーティーを楽しんでくれ。」


周りの人達はアルフレッド王子の言葉と、さっきのアレン君の行動で分かっているのか、すぐさま安心したような声を出してパーティーに戻った。


バンシーさんは居づらくなったのか魔族の男につれられて奥の部屋に消えて言った。


……バンシーさんがヒロインを乗っ取るつもりなら今んところ起こしてるイベント的にアルフレッド王子狙いなんだろうな……


これからどうしよ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

悪役令嬢は脇役くんが好き @Lamiadoll @Lamiadoll

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ