第11話 脱出
美しい鏡も陣も、一瞬にして消え失せた。
そして光が舞い散るように、少女の装束も霧散してしまった。
和装の変わりに少女を包んでいたのは、上質な黒生地で仕立てられたかっちりとしたブレザーだった。厳めしい金糸で縫いとられた紋章が、いかにも「名門」という風情を醸す制服だ。
黒のプリーツスカートから伸びる足は初冬の氷柱のように細く、冷たく投げ出されている。ブレザーの上着にはざっくりと一ツ目に切られた生々しい跡があり、深紅の花弁が流れ出していた。
(血だ)
契汰の瞳孔は恐怖と焦りと極度の緊張で大きく開かれた。
ぐげぅおおおおおおおおう……
一ツ目はなおそのおぞましい爪を振り上げる。
今度やられたら確実に少女は死ぬ、それは明白だった。
「やめろおおおお!」
契汰は少女を庇うように覆いかぶさった。胸の中では呼吸音すら聞こえない。
少しずつ少女が冷たくなっていくような気がした。
「待てぇええい!」
声の主が叫ぶと同時に、草の蔓が再び化け物をに食い込んだ。
ぐががががが!
化け物は再び蔓に封じ込められる。どうやら謎の関西弁が、二人を助けてくれたらしい。声の主が契汰を急きたてた。
「へなちょこ、すぐ逃げるで!」
「へ?」
「アホ! この術は二度目なんやで、じきに破られてまう!」
「わ、わかってるけど、でもどうやって!?」
「ワシがなんとかする! とにかく生き残ることだけ考えるんや!」
契汰は声の主に従うほかなかった。
気を失いそうになるのを必死にこらえて、声の主の指示を待った。
「ここから離れる。へなちょこは、お嬢ちゃんをしっかり持っとくんや!」
すると、目の前に黒い波が押し寄せた。身体がふと軽くなり、まるで宙を動いているかのようだ。一ツ目の出す轟音が少しずつ遠のく。
しかしそれと反比例するように、契汰の倦怠感はなぜか増していった。
猛烈な眠気が押し寄せる。契汰はひなのことを想った。
「間部さん、最後にひと目会いたかったな」
彼女の愛らしい面影が、まぶたの闇に滲んで消えていった。
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