第9話 陰陽師の役目

「君も視えるのか? モノノケっていうのか、あれは?」

「そう。あれは、物の怪」


(初めてだ、視える人と出会ったのは)


  喜びとも驚きともつかない感情が溢れた。だが、今はそれどころではない。


「その物の怪っていうやつのことは知らないけど」

 

 契汰はじっとりと滲む冷たい脂汗を感じながら言った。


「たぶん、あいつはヤバイやつだと思う」

 

 少女はくるりと振り返り、澄んだ瞳で契汰に向き直る。


「物の怪は、封じるもの」

「封じる?」

 

 契汰は混乱した。


「あれを、封じるだって? 見るからにやばそうな怪物を?」

 

 うろたえる契汰を他所に、少女はゆっくりと物の怪に向って歩き始めた。

その後姿は服を通してもわかるほど華奢で、細い柳のような身体だった。


「や、やめろって!」


 契汰は思わず叫んだ。


(こんな女の子に、相手させていいような代物じゃない)


 契汰の勘がそう知らせていた。


「無理だ、あんなやつどうする気だ!」

「私の役目だから」


「役目?」

「そう、陰陽師の家の、役目」

「お、オンミョウジ?」


 そう言った少女の先で、一ツ目が目を細めた。

 どう考えても獲物を見ている目だ。


(止めなくては)


 そう考えるがうまく身体が動かない。

 

 浮世離れしたの衣装を身にまとった少女は冷たい月光に照らされ、神々しさまで醸し出していた。まるで、この世の人ではないみたいに。


 ぐががががががが!


 大きな地鳴りのような声を吐いて一ツ目は真っ黒な爪のような肢を現し、得意げにぬらりと振り上げる。だが少女は、身構える素振りすらしない。まるで死を受け入れるかのようだった。


「危ない!」


 契汰の身体は解き放たれたバネのように跳んで、少女を突き飛ばした。

 間一髪のところで、二人は化け物の爪を免れる。 

 

 ぐおおおおおうううう!


 怒ったように化け物は唸り声をあげた。


「うう」


 突き飛ばされた少女が呻く。

 しかしなお少女は立ち上がり、化け物に向って行こうとする。


「やめろ! 死ぬぞ」


 契汰は再び走り寄って、少女を目いっぱいの力を込めて抱きとめた。

 それでも腕を振り払おうとする少女に、契汰は思わず怒鳴った。


「いい加減にしろ!」

「役目だから」


「俺にはわかる、あれはだめだ!」

「陰陽師、だから」


「あの光の輪で戦うってのか?」

「霊具で、戦う」

「レイグ?」

 

 少女はぎゅっとペンダントを握った。


「霊具は、陰陽師の武器」

「そのペンダントのことか?」


「君」

「へ?」


「君、武器」

「きみって、俺?」


「君、シキガミ」

「俺がシキガミ?」

「せや。おまえさんが、式神や」


 突然、頭上で謎の声が答えた。

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