第6話 ふたりボッチの誕生日
契汰はゆっくりと目を覚ました。部屋の中は真っ暗である。
闇の中に、小さな蛍が飛んでいた。
(この季節に、蛍なんているわけ無いよな)
契汰はそれが「視えざるもの」であることが解った。
しかし、悪さをするようなものではないらしい。ただふわふわと浮いている。
(丁度いい)
蛍の光を頼りに慣れない目を凝らすと、机の上には食べ終わった桃色のお弁当と飲みかけの水筒が置いてあるのが解った。
(お昼を食べてそのまま寝ちゃったのか)
寝ぼけながら上体を起こす。
床の上で寝ていたためか、体中が痺れて痛む。
壁伝いに、荷物に躓きながらも電気をつけた。殺風景な部屋が照らしだされる。部屋中、全く掃除が進んでいない。
時計を見やると、午後11時59分。
(どうしよう。もう間部さんを迎えに行かなくては)
焦りとは裏腹に、身体が動かない。
気持ちを持て余しながら、目だけは動いて時計を捉える。
(もうすぐ12時だ……)
恨めしい気持ちで秒針を眺めた。
55秒、56秒、57秒。
(間部さん、もう待ち合わせ場所に来ているだろうか。だとしたら早く行かないと、女の子が一人では危ない)
58秒、59秒。
(よし、行くぞ)
契汰は覚悟を決め、「おらっ」と立ちあがった。
フッ。
その瞬間、鍵をかけたままの部屋の中から、その姿が忽然とかき消えた。
――突然主を失った部屋は物音一つ立てず、電灯と時計、そして蛍だけが規則的な動作を続けている。
ピンポーン。
静寂を破って、古びたインターホンの音が鳴った。
誰もいないアパートの玄関ドアの前に、素朴で可愛い女子高生が大きなケーキの包みを持って立っている。
ピンポーン。
部屋の中の蛍がざわめく。しかしその音が、外に聞こえるはずもない。
反応が無いのを不審に思い、女子高生はもう一度インターホンを押した。
しかしまた反応は無い。女子高生の頬がむくむくと膨れる。
いつまでも、いつまでも、夜の闇に紛れながら、インターホンを押し続けた。
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