第7話 式神、勧請。

「うわっぁぁああああああああああああ!」


 契汰は自分の部屋から突然、真っ白な世界の中に放りだされた。

 重力が無いのか、天地の区別さえつかない。

 身体は支えを失い、前後左右上下、あらゆる方向に振り回される。


「うおっぇぇ……」

 節操のないジェットコースターに乗っているような心地だ。

 吐き気が急激に襲う。

 

 一生懸命、この訳が解らない世界からの出口を探した。

 しかしあたり一面、得体のしれない空間だ。


「嘘だろ……どこだよここは」


 すると見開いた目の中に、白銀の光が押し寄せてきた。

 なす術も無く、光り輝くの靄の中に取り込まれる。

 目を凝らすと、光の合間に真っ黒な空間が見えた。


「あれが出口か?」


 懸命に、その闇に向ってもがいた。すると、急に重力が身体に戻って動きやすくなる。むしろ動かなくても、勝手に目指す部分に引き寄せられる。


「行けるぞ!」

 

 喜びの声を上げたが、その声は、すぐさま悲鳴に変わった。

 闇の先に、「地面」が見えたからだ。


「落ちてる!?」

 

 契汰は重力に逆らって身体を起こそうとした。しかし時既に遅し。

 契汰は「地面」に叩きつけられた。


 ドサッ!!!!


 鈍い音と共に、顔面から倒れこんだ。


「ああ、俺死んじまったか」

 

 契汰は目を固く閉じたまま呟いた。

 しかし、全く痛みが無い。


「あれ?」


 確かに自分は地面に身体を強打したのだ。

 痛いという感覚が無いのは明らかにおかしい。

 考えを巡らせていると、


「……」


 無言の足音が近づいてくる。目を閉じたままなので、その姿は解らない。


「……」

 

 足音は止まった。


「……」

 

 そして足音は歩調を乱した。どうやらひどく困惑しているらしい。

 するといきなり耳にひどい痛みが走った。


「いててててっ!」

 

 契汰は思わず目を開けた。

 真っ黒な空間だと思っていた場所は、鬱蒼とした森だった。


 夜のはずなのに、不思議と明るい。


「なんで……」

 

 妙に思って見回わすと、どうやら彼の身体の下から光が染み出しているらしい。耳を誰かに握られたまま、やっと瞳だけを動かして自分の真下を見やる。


 契汰が落ちた「地面」を広く取り巻くように、銀の光の波が揺らめいていた。

 波が起こした風を受けて、草がゆらゆらと気持ちよさそうになびいている。


「え?」

 

 踊る草の先端が、契汰の身体をくすぐった。

 驚くべきことに彼は、地上から数センチというところで浮かんでいたのだ。


「なんだよ、これ」


 ぐいっ。

 またも強い痛みが耳に走る。

 

 見上げると、華奢な少女が契汰の耳を引っ張り上げて覗きこんでいた。

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