第9話 オレ達が勝つ布石は整った
「……」
ぼくと詩志副会長と書記が出て行った、その部屋に残されていた。
そして数秒後。
詩志がぽつりと一言。
「……あの書記の人、なかなかいいな」
「お、詩志もそう思うのか?」
ああ、と詩志は椅子に座りながら頷く。
「あんな馬鹿が副会長になっていられるのも、彼女のおかげだろうな。何であいつに従っているんだろうな?」
「さあ? 世の中には不思議なもんもあるんだなあ……あ、じゃあ後々のために、悠一に彼女について詳しく調べさせよう」
「だな」
詩志は伸びをすると、そのまま椅子に寄り掛かる。
「あー、疲れた。どんだけ細かく説明しなくちゃいけないんだよ」
「本当に長かったな。文章に起こしたら原稿用紙10枚は超えるだろうな」
「どうして海斗はいつも原稿用紙で例えるんだ?」
「例えを分かりやすくするためだよ」
「分かりにくいがな」
まあ、そうだけどな。ノリだし。
「しっかし、これで――2年には勝ったな」
詩志は満面の笑みを浮かべる。
「こんなに作戦通り行くとは思っていなかったぜ」
「一応訊くが、副会長が凄く頭が良くて温厚だったらどうしたんだ?」
「他の策があったさ。そん時は」
成功率は低くなるけどな、と机に深く足を乗せる詩志。
「ま、普通は気がつけないだろ」
「ああ。現に気がついてなかったな」
「口には出していたのにな」
「全くだ」
ぼくは彼らの言葉を思い出して眼を細める。
きちんと、こちらの不利になるものは書かれていなかった。
おかしな所は何もなかった――か。
「しっかし、これを文章に起こしたら、ってお前は言ったけど、本当にそうしたら相当くどい文になるだろうな」
「多分ね。読み飛ばす人も多数いるだろうよ」
「そういう奴は、あの副会長と同じだ」
「お、言い得て妙だね」
「ふふん」
そう機嫌が良さそうに鼻を鳴らして、詩志は器用に、机に乗せていた足を軸として飛び上がり、机の上に見事に着地する詩志。
……こうして説明してみたが、どうやったんだろうか。原理が分からん。
「――さて、もういいぞ」
肩を回しながら、詩志は不意に上を向いて丸印を作る。
「おいおい、盗聴は勿論、盗撮もしていたのか?」
「ああ、一応な。こんな紙切れは法的能力がないし、証拠として押さえておくのは当然だ」
「まあ、そりゃ当たり前か」
「よし。後は先生達に、この書類を見せながら当日の段取りを説明するだけだ」
「今度は『書類を見てください』って言って、2年生からの証明を見せれば、反論なんかないだろうよ。あんな長々とした説明はしなくてもいいから楽だぞ」
「んなの当たり前だろ? あんなの――2年(、、)に(、)対して(、、、)だけ(、、)なんだからよ」
そう言いつつ、詩志は机から飛び降りる。
「あの人はそれに気が付いていないようだったけどな」
「話を急ぎすぎたな。急がば回れ、って言葉もあるくらいだし」
「なら、こっちもゆっくり行こうぜ。つーわけで、先生への提示は明日にしよう」
「賛成。ちょっち疲れたし、明日出来ることは明日しよう。だが借金は返さない」
「最悪だな、お前」
そんな冗談を交わしつつ、ぼくたちは部屋から退出して行った。
今回の最大の目的は、この書類に書かれていることの『全て』を了承させること。
それさえクリア出来れば、勝ったも同然だ。
勝利のための布石は打った。
2年生に勝つ準備は整った。
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