VS 2年生
第10話 オレ達と2年生の勝負 ――勝負前
◆
『あー、あー、あー、マイクテスト、マイクテスト。おれの美声は届いているでしょうか?』
『んー、こちら放送室。きたねえ声なら聞こえているぞ』
『ありがとう先輩。男だけど愛してる』
『おう。ありがとうな、轟。さっさとその愛に殉じてくれ』
土曜日の午前10時。校内にそんなやり取りが流れた。
この時期は本来なら大会も近いために部活動が真っ盛りのはずなのだろうが、今日はどの部活動もお休みである。もっとも、力で頭脳を奪える世の中になってからは、先輩後輩の関係が複雑になってほとんどの部活動が機能しておらず、例外なのは放送部を含めた数部のみ。まあ流石に例外とは言っても、こんなにも先輩と親しい関係である悠一は、本人の性格あってのモノなのだろうけど。因みに悠一が言うに、その先輩も同級生に頭脳を奪われ、悔しい思いをしたという。「だから喋りしか出来なくなったんだけどな」と、その先輩は笑いながら軽口を飛ばしているそうだが、後輩の頭脳を奪わない辺り、同じ目に合わせないと考えているのだろう。悠一がその点を指摘すると、照れながら「うるせー。力があったらお前のなんざ奪っているよ。ま、奪ってもしょうがないけどな」と頭をグリグリ撫で回されるらしい。いい人だ。
だから悠一は彼を信用して自分達の目的を話し、結果、こうして放送部が全面的に協力してくれることになった。
そのことに詩志は「べらべらと計画は喋るなよ」って怒っていた。けど、まあ、詩志も判っている通り、悠一は馬鹿じゃないから、この言葉も口先だけの注意。むしろその言葉はその場にいた、誠や杏、美里に向けられたものだったんだが……まあ、これは余談だ。
さて、話を戻そう。
ついに、2年生との勝負の日が来たわけだ。
1年生は体育館のスクリーン、2年生は視聴覚室、3年生は各クラスの教室に割り当てられた。予想通り、3年生はほとんど登校していないようで、教室に向かう生徒は10人いるかどうかだった。それとは打って変わって2年生は相当な数がいるらしく、かなり広い視聴覚室の席はほとんど埋まっている状態だそうだ。1年生はというと、なんとほぼ全員が登校してきたという。3組の人達は(一人を除いて)勿論、他のクラスの人も次々と体育館に集合していた。
そして、グラウンド。
大掛かりな映像装置を付けるわけにもいかず、行われるのは午前中の競技だけで、視覚的に面白いのは100メートル走くらいにも関わらず、1年、2年、合わせて150名近くの人数が集まっていた。一応、安全性のために、両者の間には先生達が緩衝地帯を作って離してくれている。
結局、思ったよりも、大掛かりなものになっていた。
「ありゃー、人多すぎだね」
1年1組の教室内。
窓の外を見ながら、詩志は大きく欠伸をする。
ぼく達は8人全員、控室となっているこの教室に集まっていた。勝負の前にゆったりと椅子や机に身体をくゆらせている中、悠一だけは忙しそうにヘッドマイクで放送部員と確認を取っている。悠一はこの後、誠のマラソンの実況をするべく、先生の車へと移動する予定となっている。因みにカメラマンは改多が務めることとなっている。放送部の人手が足りないのだ。
そんな忙しい悠一を他所に、この教室の中でもっとも緊張していなければいけないはずの代表者である詩志が、緊張感のない声を出す。
「みんな暇なのかねー」
「まあ、一応、自分達には重大なことだからね。2年生は」とぼく。
「でもさー、何で1年生までこんなにいるのー?」と杏。
「ただの見物だと思うよ」と美里。
「あたし達は見世物じゃないっつーの」と夢。
「本当だよ」と誠。
「……だが、ショーにするつもりなんだろう、詩志?」と改多。
「ああ」
腰に手を当て、詩志は吐き捨てるように言い放つ。
「2年生との勝負なんて前座に過ぎん。前座であるが故に、こんなに客が入るのは非常に馬鹿馬鹿しいな。――さて」
にやり、と口の端を上に吊り上げる。
「この勝負の後に本番を見に来る1年生が、何人いるかな?」
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