第6話 オレ達の宣戦布告は秘密だよ

     ◆



 帰りのホームルーム。

 数学担当であり、ぼく達のクラスの担任である背の低い女教師、由良見ゆらみゆう――通称『ゆらみん』は、時代劇のような古めかしい口調(因みに、そんなことをしている理由は悠一曰く、幼い容姿である自分をなめられないため、だそうだ)で、配ったプリントの内容を読み上げる。


「あー、そこにいる獅子島が今回の宣戦布告の主だが、それは判っているでござるな。それで拙者達教師は次のように条件をつけた。授業にはきちんと出る、勝負するのは教師の前で、しかも休日に。これは授業に支障ないようにした措置でござる。まあ、休みは暇だからいいんだけどね。……コホン。それとみんな、これは約束して欲しいで候」


 あれ、他にあったっけ? とぼくが考えていると、由良見先生はコホンと一つ間を置いて、


「この宣戦布告は、保護者の方には伝えないようにしてほしいでござる。あまり言っちゃいけないけど……見学をする人は、あくまで他の理由を挙げて誤魔化してほしいと思うで候」


「……え?」


 至る所で疑問の声が上がった。ぼくも思わず声を出して後ろにいる席の詩志を見てしまった。その詩志は平然な顔で「どうした?」と訊き返してくる。


「当たり前のことだろ? この学校で宣戦布告があったなんて判ったら、この学校の現状が外に伝わっちゃうだろ。ま、どうせ知られているけどさ。でも学校側としては体裁だけでも整えておきたいわけさ」


「ふーん……」


「だから万が一のためにも、1年生の方には『オレ達だけ』って言ってあるんだよ」


「成程」


 我が子には関係ないと判れば親は乗り出さないだろうし、乗り出しても「一部の生徒だけなので」と学校側はいくらでも説明出来る。

 それが『ぼく達8人だけで勝負する』ということでの、学校側の利益である。

 因みに2・3年生の方は、自分達が勝つと思っているので、話題にすら出さないだろう。加えて、1年に勝っておいた方が得であるため、わざわざ中止に追い込むわけがない。


「ってなわけで、こんな条件で、今回の宣戦布告を学校側に認めさせたんだよ」


「へえ……あ、でもさ、ぼく達が2年生に勝っちゃったら、3年生が身の危険を覚えて、保護者が動くんじゃないの?」


「そうしたら先生達が何とかするさ。そういう約束だしね」


「約束?」


「ああ。オレ達が先の条件を付ける代わりに、学校側は勝負に関して全面的なサポートをするという約束を取り付けている」


「そんなことを簡単に約束するってことは……学校側も、ぼく達が勝てるとは到底思っていないってことだな」


「そういうことだ」


 ふふん、と自身満々に笑う詩志。その表情からは、敗北するなんてこれっぽっちも思っていないようだ。


「……待てよ。だったら土壇場で、学校側が約束を守らないって可能性もあるんじゃないのか?」


「うんにゃ。それはないと思うぞ。学校側から見たらオレ達は、手に余っている3年生に対して、万が一にも勝つかもしれない存在なんだからな。勝因に関わるような直接的な手伝いは出来ないだろうが、勝負の場の提供くらいはきちんとしてくれるだろうよ」


「まあ、そういう考えもあるか……」


 ぼくは成程と首肯するが、すぐにその動きを止める。


「いやいや、それは違うと思うぞ。2年生に勝ったら保護者からのストップが掛かる。そうしたら学校側は強制的に止めさせると思うよ」


「うーん、確かにそうかもな。まあ、そうなったらそうなったで――」


 未だにざわめいている教室のど真ん中。

 恐らくぼくにしか聞こえなかっただろうが、詩志は、はっきりと次のように言い放った。



「オレ達は――学校側に宣戦布告する」

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