第25話 オレ達と3年生の勝負 ――20000メートル走に動きが!?
◆
11時05分。
「はあ、やっと戻れたよ……」
疲労困憊でテンションの低い声を放ったのは誠。
「よお、お疲れさん。ずっと捕まっていたのか?」
「ああ、海斗。うん……記録が10秒台前半だったらしくて、『世界を狙えるよ!』と顧問の先生まで出てきてさ。僕自身はこの足を嫌っているし、まだまだ詩志の計画は始まったばかりで部活なんてするわけにいかないから、きちんと断ったよ。後者の理由は言わなかったけどね」
「そうか。それはすまんな」
ひょいと、詩志がぼくの背中に圧し掛かる形で、身体を乗り出す。
「お前の自由を奪う形になってさ」
「いやいや、気にしなくていいよ」
慌てた様子で否定する誠。
「最初っから部活になんか入るつもりはなかったから、いいんだよ」
「そして誠がどんどんニートになって……」
「勝手に人の人生を決めつけないでよ」
あははと二人が話を咲かせている中、背中で詩志を支えながら、ぼくは周りを見渡す。悠一は勝負直後にこちらのテントにちょっと顔を出したが、すぐに放送部の仕事に行ってしまった。
で、杏はというと、大人しくテレビに齧りついて――
「あー!」
と、語ろうとした所で、大声を張り上げた。
「どうした、杏?」
「これを見てよー」
彼女はテレビ画面を指差す。
「そろそろか」
その詩志の声は、その姿を見ずとも、口の端を歪めていることを推察させた。あえて確認はせずにぼくは視線を画面に移す。そこには当然と言えば当然に、20000メートル走の走者が映っていた。
今まではずっと、先頭の一人をずっと映していた。
だが現在の映像では、二人の女性が映されている。
つまり――美里が彼女に追いついてきていた。
『おっと! いつの間にか梶原さんが村田さんに迫ってきたーっ! その距離は既に3メートルを切っています。村田さん、とても苦しそうです』
夢の実況の通り、3年生の人は顔を歪ませて、それでも前を向いて必死に足を動かしている。
一方で美里はというと、涼しい顔でその後ろを淡々と走っている。
何で!? どうして!? という声が校舎から聞こえてくる。実況だけが流れているグラウンドでも、段々とざわめきが増していった。
そして、ついに――
『あーっと! 1年生が今、3年生を抜かしましたーっ!』
うおおおおおおおお、と1年生側から歓声が轟く。反対に3年生側からは、絶望している顔がちらほら見られる。
すると、画面上の3年生がキッと眉を上げ、美里を追い抜き返す。
今度は、教室の3年生側から歓声が上がる。
だが、すぐに美里はペースを乱さずに平然な顔でそれをまた抜き返す。
それを見て、画面上の3年生の顔が大きく歪んだ。
そして、それ以降――彼女が美里の前を走ることはなかった。
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