第28話 オレ達と3年生の勝負 ――午前終了
◆
30分後。
『――あー、よい昼下がりで』
一人を除いて屋上に集まっていたぼく達は、その当該人物の声を、スピーカーで耳にする。
『えー、では、早速ですが、ミスコンの最終結果を発表いたします』
下から、ざわっとしたどよめきが聞こえてくる。
そんな中、ぼく達はゴザを広げて、悠々と弁当を食していた。因みに作ったのは夢。シェフもびっくりのおいしい料理だ。
『ま、私から言わせてもらいますと、その差は圧倒的でした。見た目、性格、どれを取ってもある一方が圧倒的に勝っていました』
悠一はそこで、はあ、と溜息を大きく聞かせてくる。
『ですが、結果は、それとは全く逆のものになりました。勝ったのは……』
一呼吸おいて、 勝者の名前が告げられる。
『――玖堂泉さんです。よって、3年生側の勝利です』
うおおお、という雄たけびが響いてきた。見なくても分かるが、3年生のモノだ。ずっと負けていた自分達が一勝を挙げたのだ。ここで湧かなくてどこで湧く。
そして、グラウンドの真ん中で二人の人物が飛び跳ねているのがここから見えた。本郷剛と玖堂泉。彼らは一通り騒いだ後、「見たかコノヤローッ!」とぼく達がいる方向とは90度違う校舎を指して叫んでいた。
「……馬鹿だよなあ」
詩志はしみじみと呟いた。
「あいつらのおかげで勝ったんじゃなくて、阿部が手を打っていたから勝ったってこと、本当に知らないんだな」
「うん。始まる前にはあんなことを言っていたけど、実はきちんと仕込んであったんだね。勝つための方法」
「なんだ誠、気がついていなかったのか?」
ぼくの驚きの声に、誠は恥ずかしそうに頬を掻く。
「うん。なんとなく何かがおかしいなとは思っていたけど……」
「詩志が『負けなきゃならない』って言ったんなら、ただで負けると思わない方がいいいぞ。現に、こうして相手は『勝負に勝っても本質で負け』なんだからさ。まだ気がついていないみたいだけど」
「……喜べる方がおかしいからな。この種目は。特に当事者」
改多がマニュアルを手にとる。美里はその改多の手元を指差す。
「これ、読んでいなかったのかなあ?」
「あ、わたしはちゃんと読んだよー」
先程の衝撃からようやく立ち戻った杏が呑気そうな声を出す。因みに、何を言われたのか覚えていないと言っていた。深層心理でトラウマになっていなければいいが……
「だから悔しくないよー」
「あんたの場合は、どっちにしろ悔しくないでしょうが」
コツン、と杏の額を小突く夢。
「美しさ、可愛さになんか興味ないんだからさ」
「夢ちゃんは興味あるのー?」
「女の子だったら普通はあるの。ま、あんた達見ているとアホらしくなるから、あたしもあんまりそういうのないけどね」
「サラッと掻き上げる仕草を見せ、顔を歪ませて、夢は述べる。そして心の中で誓った。『地獄の業火に焼かれながら、それでも天国に憧れる』」
「……意味が判らないわよ、海斗」
呆れられた。因みに後半部は、オペラ座の怪人の一部だ。昔、漫画で見た。
さて、脇道に逸れるのもここまでにしておいて、
『はーい、静まって静まって』
体操のお兄さんのような、とても悠一のものとは思えない爽やかな声が流れる。
『お手元になる冊子――ルールブックみたいなものです。そこに書いてあるので分かるとは思いますが、今回は男女別に投票内容が違っております。男は普通のミスコンと同様、【どちらがミスコンの勝者に相応しいと思うか】です』
ふふん、と誇らしげに上を向く玖堂。
『――が』
ピタリ。
『女性のものには、全く逆のことが書いてありました』
その言葉の途端、グラウンドの二人の動きが止まった。
『女性の方にはこう書いてありました。――【あなたはどちらの方に嫌悪するか】と』
「な、なんじゃそりゃっ!」
玖堂が叫び声を上げる。
『勿論、女性の方も丸が付けられた方のものをカウントし、プラスとしています。これは、3年生の方から【女性から正しい美しさの判断を引きだすのは難しいので、美しいものには嫉妬するだろうという、アホなことだけど、それを適用しようじゃないか】という提案があり、1年生側がそれを呑んだため、要求通り、こうして適用することとなりました』
まあ、恨むなら3年生を恨めよ、ということだ。
『得票数を発表します。総数701。名橋杏――322。うち男子283、女子39。続いて玖堂泉――379。うち男子55、女子324となっております』
男女比だけで見れば、圧倒的な差。しかし全体では僅差。成程。阿部はこれを見越して、本郷に男子の制圧に当たらせたのか。しかしそれでも、55人しか従わなかったのか。意外と従わなかったな。さぞかし阿部は内心、ひやひやとしたのだろう。
「ふぅ、危なかった」
こちらの代表も冷や汗を掻いているが。
「杏、お前ちょっと強すぎだぞ!」
「わざとじゃないよー」
「相手が弱すぎただけだろ?」
ぼくのその指摘に、みんなはうんうんと首を縦に振る。
「そうだ杏、試しに悪女っぽく、『私に勝てるはずがないでしょ』って演技してみて」
「あ、うんー……おーっほっほ! 私に勝てるはずがないでしょ!」
「うわ、すっげえ、裏がある女」
提案してみてはいいものの、容姿と相まって凄いリアル感。漫画とかではそういうキャラになるんだろうな、こいつ。
そんな杏は、少し影を落としてこう呟いた。
「……わたし、このキャラでいった方がいいかなー?」
「やめておけ。演技だと区別がつかん。マゾヒストにしかメリットがない」
「じゃあ、わたしにメリットがあるねー」
「まさかのM宣言! 夢とコラボってSMに!」
「誰がSよ!」
夢から平手が飛んでくる。ギャルゲーの主人公ならここで受けるだろうが、そうじゃないぼくはひらりとかわす。が、
「オレがSだーっ!」
「ぐぼう!」
後ろからの攻撃はかわせず、背中にクリーンヒット。感触的に拳二つ。声的に詩志。
「何するんだよ!」
「あ、わりい。ノリだ」
「ノリですんな!」
まあ、こちらもノリで夢に振ったのだから文句は言えないけど。
『……コホン』
と、そんな現状を知っているかのように、悠一が一つ咳を切った音が聞こえた。
『さて、以上を持ちまして、ミスコンを終了させていただきます。午後の種目は14時からとなっていますので、皆さん、ハヴ・ア・ナイス・ラーンチ!』
遊んでいるうちに、ミスコンが終了した。
これで、午前中全ての種目が終了したことになる。
ここまでの戦績は、3勝1敗。
勿論――予定通り。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます