第33話 オレ達の小休止

      ◆



「お前……脱いだのか……」


「ちょっとだけな。さらしも取っていないし、下半身は脱いでないぞ」


「そういう問題じゃねえよ」


 飄々としている詩志に、開いた口が塞がらない。


「全く……お前は女だって自覚があるのか?」

「ないよ」


 あっさり。


「だからさ、みんな知らなかったじゃん。オレの性別」


「そりゃそうだけどさ……」


「し、しつもーんー」


「どうした、杏?」


「あーあー、言いたいことは判る」


 悠一がそう声を上げて、素早く杏に耳打ちをする。何を言っているかはほとんど聞こえなかったが、少しだけ聞き取れる部分が。あったので抜粋。


「……当たり前だろ。じゃなきゃさらしなんて……」


 ああ、成程。そこだけで判った。


「そんなー……」


 涙目になる杏。負けたのか。果たして、杏が勝てる相手は同世代以上にいるのだろうか。

 そんな心配はさておき、試しに聞いてみた。


「なあ詩志、スリーサイズは?」


「ん? 測ったことないな」


「……じゃあ、何で悠一が知っているんだ?」


「さあ?」


 他人事のような反応。


「頼むから羞恥心を持ってくれ……」


「それもそうだな」


 あっけらかんと、詩志は頷く。


「もう女性であることを外でも隠す必要性はないからな」


「隠すって……あれ? 意図的に小学生の時からずっと隠していたのか?」


「いやいや、それはない。ただ、もういいかなーって。男の振りして実は女だったってのが有効なのは、もうないだろうしな。って言っても、流石に女生徒の制服を着る気にはなれないけどな」


「想像はしないぞ」


「さすがフラグブレイカー」


「それはやめれ」


 お前に恋愛感情はないし、お前もぼくになんかそんな感情を持たないだろうが。


「……それで詩志。続きは?」


「おう? どした、改多」


「まさか、この漫才をまだ続けさせる気か?」


「……違う。さっきの話の続きだ」


「さっきのってーと……ああ、柔道の話?」


「あ、それはあたしも気になっていた」


 夢がひらひらと手を振る。


「あたし達に言ったじゃない。『格闘は3分半で相手を倒せ』って。あれが何でだか、まだ教えてもらっていないわよ」


「そういえば、あの午後の対決の最初の方で、放送事故があったよね」


 額に人差し指を押し当てて、美里が唸る。


「あれってもしかして、詩志君の策略?」


「正解。――ってか、始まる前に言わなかったっけ?」


「言ってたよ。でも、どうしてそうなるかは言っていなかったから……」


「そうか。それも夢のと合わせて答えられるな」


 そう一つ頷き、


「よし。じゃあ後編、話しますか」


 腕まくりをした詩志の話に、ぼく達はまた耳を傾け始めた。

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