オレは上級生に宣戦布告する
狼狽 騒
プロローグ
第0話 プロローグ
〇
『オレは、上級生に宣戦布告する』
5月6日。午前8時30分。
ゴールデンウイークが終わり、ほとんどの生徒が鞄の他に憂鬱な気分を背負って登校したであろうその日の、ホームルームの始まる前。
前触れも何もなく、校内中にそんな放送が流れた。
その瞬間、教室中のみんなの動きが止まった。そして次第に、「ねえ、何なの?」「あれ? この声って……」「宣戦布告ってさ、あれだよね……」などと囁き合う声が聞こえ始める。
『オレは一年の
スピーカーから再び声が流れ出す。
獅子島詩志。
その名前は、このクラス―― 1年1組の全員が知っていた。
獅子島詩志は、いわゆる同級生、しかしただの同級生ではなく、背は小さいがとても整った顔立ち――言うならば可愛らしい顔をしているため女子にはとても人気があり、また快活な性格なので男子にも人気がある、このクラスの学級委員長だった。
その詩志の声が聞こえたからであろう、クラスの人々は面食らった様子でスピーカーを見上げる。
『1年生諸君。この1ヶ月、この高校で学校生活をしてみて、不満を感じなかったか? いいや、感じたはずだ』
確かに。この高校に限らず、今や何処の学校でも、先輩が後輩を力で抑圧する風習が強まっている。特にこの高校は顕著で、色々なものが奪われている。
その主なものが――学力だった。
学力。
普通は、そんなものを奪えるはずがないのだが――
……まあ、この説明は後にしよう。
『そんな高校生活を変えたくはないか?』
詩志の演説は続く。
『だからオレは、上級生に宣戦布告する。この宣戦布告は、ちゃんと法律に沿った形であるから違法性は何もない。因みに、上級生というのは2・3年生両方に宣言している』
エーッ、という声が教室のあちこちから上がった。しかし、そんな声が聞こえるはずもなく、何ごともなく話は続く。
『さあ、1年生の諸君。この宣戦布告に則って、この学校を変えようとする者は、今から西校舎の屋上まで来てほしい。締め切りは8時50分まで』
ドン、という、恐らくは机を叩いた音。
『さあ、一緒に世界を変えようじゃないか! 以上!』
無機質な音と共に、放送が切れる。
「…………………」
同時に、沈黙が教室内を包み込む。そこから数秒間、空間が切り離されているかのように時間が静止する。
「……無理だよな」
ふと、誰かがそう呟いた。
それを皮切りに、皆がそれぞれの意見を口にし始める。
「だよな」「だって負けたら……」「それに、2・3年生を同時に相手にするとか……」「誰がやるんだよ、こんなこと」「誰もやれないし、やらないよな……」
そんな否定的な言葉達が飛び交う中。
「――いるんだよね、これが」
一人の美しい――というよりも格好良い少女が、黒い長髪を掻き上げながら不敵な笑みを浮かべ、椅子から立ち上がる。
すると――
「ここにもいるしね」
数人の男女が、それに続いて椅子を引く。
柔らかな雰囲気の美少女。
がたいのいい男子。
顔の彫が深い男の子。
高校生にしては妖艶な女生徒。
ムードメーカー的なお調子者の男。
――と。
そのお調子者の男の子が、突然、ある人物に向かって眉を潜める。
「どうした? 何でお前は行こうとしないんだ?」
「ん?」
その人物――つまりはぼくのことなのだが――は、持っている箸で机の上の弁当箱を差す。
「だって、まだ朝御飯食べている途中だし」
「お前……空気読めよ……」
「空気は食べても腹は膨れないだろうが」
と、まあ、そんな冗談を口にしつつ、ぼくもゆっくりと立ち上がる。
立ち上がったのは、男4人、女3人。
格好いい少女――
柔らかな雰囲気の美少女――
高校生にしては妖艶な女生徒――
がたいのいい男子――
顔の彫が深い男の子――
ムードメーカー的なお調子者の男――
そしてこのぼく、
この7人に詩志を加えた計8人。
さて。
この宣戦布告。
結局はこの8人だけで上級生に挑むことになるのだが。
それは――このお話で。
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