第3話 ハンターギルド

 2018・10・16 改稿


 叩かれる陰口を背に、俺はとっとと冒険者組合を出て、仕事をくれたところへとやって来ていた。


 ”ハンターギルド”


 冒険者組合と竜虎相打つ中の組織である。


「……まったくよお、アイツらやる気あんのか?」

「ないんじゃないですか。初級の仕事、たぶん全部ここにありますよ。確認してみます?」

「いいよ、たぶんその通りなんだろうし。なんのためにわざわざ仕事回してやってると思ってんだ、組合長さんはよぉ」

「それが分かる人なら、そもそも俺が細かいこと確認しに来ないっすけどね」

「……ハァ」


 ため息をついてうなだれるこの人。ハンターギルドのマスター『ミラベル・ウィルクス』さんである。言葉だけをとればガラの悪い男のようだが、れっきとした女性である。しかも美人。日に当てると少し紫がかる腰まで伸びた黒いロングヘア。瞳の色も同じで、性格的にきつそうなのに、たれ目がち。何より生地の薄いパツパツの白Yシャツを下着なしで着ているため、巨乳の先っちょが何やら不穏な雰囲気を放っている。好色な男なら胸元を見て鼻の下を伸ばしているに違いない。こんなカッコをしておきながら下ネタNGというえげつない女性である。故に胸元に目を向けるわけにはいかない。……死にそうな目に合わないために。


「アレクよぉ~、お前ハンターライセンス取れや」

「えっ?」

「だからよ、ライセンス取れって。お前だったらE級から始めさせてやっから」

「そんなの組合証と同時に持っていいんすか?」

「一応ダメらしいけどバレやしねえよ、そんなもん。どうせ、組合に仕事持ってったって、全部お前がやるならもう回す必要ねえだろ」

「まぁ、確かに」


 ここハンターギルドはここ十何年かでできた新規の組織らしい。どうも冒険者組合のやり方が気に入らないが、仕事のできる人たちが起こした組織、それがハンターギルドだ。ただ、組合が国の補助金などが出る組織に対し、ギルドは完全に純粋な民間組織であるところが違う。


 ”素材第一!”


 カウンターに堂々と掲げられた標語がここのすべてを表していると言ってもいい。やることは冒険者組合と変わらない。魔物を討伐し、解体。使えるものを店に卸し利益を得る。本当に全く同じだ。ただ違うのは、卸される素材の”質”。冒険者たちは自分の持つ最大火力で魔物を殲滅する。従って、取れる素材はもはやゴミである。一応素材買い取りの分をプラスすることで収入は増えるはずなのだが、どうにも冒険者というのは強さをひけらかすような戦い方をする。まぁ討伐報酬というのが組合から支払われるのだから別にいいのかもしれないが。


 対してハンターギルドは先ほどあげたように素材第一の戦い方をする。組合と違い討伐報酬が出ないからだ。たとえば熊系の魔物であれば皮が一番値が付く。なのでできるだけ傷が小さくなるように戦うのだ。前にハンターさんに付いて行かせてもらったことがあるのだが……ぐうの音も出ないとはこのことだ。とてもきれいな戦い方をしていた。戦いのベースが”傷は小さく急所に””魔物の攻撃はできるだけいなす、ずらす、躱す””急所にいけないなら一撃で首を落とせ”といったような、ある意味魔物にやさしい戦い方をするのだ。もちろん魔物にとっては厳しい結果が待っている。皮をはぎ、内臓を取り出し、牙や角、爪を根元から抉って、ありとあらゆるものを人間の糧とするために綺麗に狩られる。あれはもはや芸術の域に達している。そして、このギルドの最大のいいところは―――


「お前さん”白”なんだしよ。きっとここならいい仕事できるぜ」


 ミラベルさんが確かに言ったこの一言。これが俺をどん底からわずかに這い上がらせてくれた。


 ハンターギルドは、魔力についての研究も熱心に行っており、俺が持つような”白”の魔力についての研究がかなり進んでいる。ここでは”無”と言わないところが良い。それをもとにしたトレーニングプログラムもあり、俺も組合には内緒でこっそりと参加させてもらっていた。なので俺は組合が思っているほど弱くはないのである。……メル&シーやパンディックの連中にはまだまだ追いつけないと思うが。


「……お願いしてもいいですかね」

「ホントか!?間違いないな!?」

「ち、近い近い!」


 ミラベルさんが意識してない凶器がテーブルに乗り出した勢いでブラブラ揺れている。くっ、ダメだ、見るんじゃない!あ、もう少しで先っちょのスイッチが……


「アッ、テメ!どこ見てんだコラァ!!」


 スパァン!と顎をあっさりと揺らされ、俺は意識を手放すことになった。


「だ、だからせめて下着を……」


 下着でもやっぱり役得だなと思ったのはここだけの話だ。






 ぶくぶくぶく……


 ……?なんだ、息苦しい……


 息ができない!?なんだ?どうなってる!?


 顔をひねるが空気が入ってこない。どこを向いているのかもわからない。俺は思い切って顔を上に全力で向け―――


 ザバァン!


「ブハァっ!!はぁ……はぁ……あ?」


 手元には水のたっぷり入ったバケツ。顔はビチャビチャ。目の前にはミラベルさんがこっちを見てニヤニヤしていた。


「……意識のない人間の顔を、水がたんまり入ったバケツに突っ込んだんですかねぇ」


 こめかみがビキビキする。


「あたしをやらしい眼で見るからだよ」


 カカッと笑うミラベルさん。……おのれ、ギルドマスター。


「しょうがないじゃないですか。マスターは魅力的なんだし」

「ふぇっ?」


 何やら妙な声を上げ、こちらを見るギルドマスター。徐々にプルプル震え、顔は真っ赤になり、ほっぺたがパンパンに。腕を後ろに引いた。ん?それはまずくないっすか?


「落ち着きましょう!ね?その拳を下げましょう!きっとそれを打ち抜いた先にはとてつもない破壊の跡が……」

「問答無用!死ねやぁ!!!」

「きっと後悔す、ぶげら!」


 ドゴォオオオン!!!


 頬に食い込む感触。あぁ……間違いない。俺は殴られたんだ。そう思い残し、俺は再び意識を失った。てか、強くねえ? ミラベルさん。

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