第27話 混沌の歓迎会

2018・11・15 改稿


「ほないくで~。かんぱ~い」

「「「かんぱーい!」」」


 なんとか片づけも終わり、寮の食堂へと行くとすでに入寮していた連中が揃っていた。どうも俺たちが最後のようで。10人くらい座れそうなテーブルが3脚あり、そのテーブルの上に所狭しと料理が並んでいた。

 人数は同期が5人、先輩が3人、ミシェレさん、俺たちと全部で12人である。俺たちが空いている椅子に座ると、酒が注がれたコップを回され、すぐさまミシェレさんが音頭を取った。本当に挨拶も何もなしである。


「ぷはー……」


 ぬるっ。配られたコップにはエールが入っていたが、まぁぬるい。あたりを見渡すと、ガヤガヤとそれなりににぎやかだ。俺たちよりも先に入寮していたせいか、ある程度の交流はすでに済んでいるみたいだな。


 コップに口を付けながら、ぼんやりあたりを見ていると肩をつつかれた。なんだと首を向けると「むにぃ」と頬を指で刺された。……こんな下らねえことをする奴は誰だ? シーか? しょうがねえ奴だな。そんなにかまってほしい……


「誰?」


 いかつい細マッチョなハゲが、いい顔で俺のほっぺをつついていた。






「おれぁ~マクシミリアンってもんだ。お前らの先輩ってとこだな」

「はぁ。アレックスと言います。よろしくお願いします、先輩」


 ……エール一杯だけなんだよな? もう顔どころか頭まで真っ赤になってんぞ。酔っていることは間違いない。こういう輩には丁寧に接するにこしたことはねー。ひっそり俺の近くにいたメルとシーはすでに避難完了。俺はすでに孤立無援である。


「ところでよぉ……」

「なんでしょう……」


 もうなんか眠そうだ。この人酒めっちゃ弱いんじゃねぇ?


「お前と一緒に来た娘ら。お前のコレか?」


 クイッと小指を立てる。「どうなんよ?」と言わんばかりの顔である。どうすべと双子の方を見る。あっ、避難した先でメルとシーも同期の女子に絡まれてる。……試練の時か。口裏合わせはすでにできない。正直に話すか? それともしらばっくれるか……それが問題だ。


「アレクはあたしのいい人よ」

「アレくんとはもう……」


 って、お前らが答えんのかよ! てかシー! お前そんな言い方したら……


「なんだぁ? お前らもうヤってんのか?」


 ほらぁ! こうなんだろ! 一杯しか飲んでないのに酒臭いマクシミリアン先輩に散々絡まれることになった。何とか最後までぼかすことに成功したが……あまり意味はないように思われる。何故なら……


「アレクってば、あの時はもうオオカミなのよ」

「アレくんって、普段はツッコミとかよくしてるんだけど、あの時はもっと突っ込んでくるの! テクニックがないから力づくで荒々しいの!」

「「「「キャー!」」」」


 ……ミシェレさんも混じってんじゃんか。すでに手遅れで手の打ちようがない状態になっていた。……頼むからその辺にしといてくれ、シー。






『乳首の見えるブラが好き』とか『ノーパンガーターに尋常じゃないこだわりを見せる』とか『上にシャツ着て下がポン』とか『全裸より半裸』とか、次々に性癖を暴露され、もはや顔を上げることもかなわない。恐ろしいほどの女性から発する冷気が見えそうな状況だ。穴があったら入りたい。

 そんな針のむしろに座らされている俺の横に、2人の人物が座った。もちろん男子である。


「お前が最後の同期か。俺はウォルター、ウルと呼んでくれてかまわない」

「某はジェラードと申すでござる。ジェドと呼んで下され。某も同期でござるよ」


 顔を上げると、赤毛でツンツン短髪のポッチャリ君。こちらがウル。くすんだ金髪でやや長めのくせ毛を首の後ろで括っている、老け顔イケメン。こちらがジェドだろう。


「……今辱めを受けている、アレックスだ。アレクと呼んでほしい」


 ウルとジェドは苦笑いをし、うなずいた。そこへさらに追加人員がやってくる。


「いやぁ、大変なことになってるね」

「その歳で2人同時とはやるな」


 穏やかな言葉遣いの方はクライヴさん。黒い髪の長髪で、デコに黄色の迷彩柄のバンダナを巻いている。もう1人の方はルーファスさんという、たった一言で言うなら『金髪アフロ』。それ以外にない。そこで転がってるマクシミリアンさんの同期らしい。


「さっきはマックスが悪かったね」

「マックス?」

「マクシミリアンって言いにくいだろ? だから縮めてマックス。今度からそう呼んでやってくれ」

「うす」


 クライヴさんはまともな会話が出来そうだ。ルーファスさんはどうだろ?


「いったいどうやったら、あんなかわいい子と2人同時にいい感じになれるんだ? 後学のために教えてほしい」

「あっ、某も教えてほしいでござるよ!」


 ルーファスさんとジェドが食いついてきた。


「僕は、いいかな……」

「俺も遠慮しておこう。1人で充分だ」

「おっ。ウル君もいい人いるのかい?」


 クライヴさんの何気ない質問に、食いつく女性欠乏の2人。


「なにっ? 先輩を差し置いてお前!」

「どういうことでござるか、ウル! お主さては裏切ったな!?」

「ええい、うるさい! 俺とて一介の男子。惚れた女の1人や2人……」

「2人もいるでござるか!?」

「お前ぇ! そんな異性に興味なんか全然ありませんて顔して、そのくせポッチャリ君のくせに!」

「言葉のあやだよ! それにポッチャリは関係ないだろ! これは筋肉だ!」

「「ウソつけ!」」

「本当だ! 筋肉の上から脂がのってるんだ!」


 その言い方はどうなんだ……? ぎゃあぎゃあとヒートアップしていく宴会場に、聞き知った声が聞こえてきた。


「おーおー、やってんな」

「ふふ、すっかり出来上がってるわね。入っていけるかしら」


 ミラベルさんとドロシーさんが、会場入りしてきた。彼女らは救世の女神となってくれるのだろうか……

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