第28話 給料形態とメモ程度の魔法講座

「「「ちゅーす」」」

「おう、お疲れ! 追加持ってきたぞ~」


 そう言うとミラベルさんは、手にした袋から酒とつまみをしこたま取り出す。再び燃料は投下され、カオスはさらに深まってゆく……






「あ、アレクよ」

「なんです?」


 ミラベルさんたちは俺たちの方に来て、俺に声を掛けてきた。自分たちように確保していたのか、何やら……!


「ひ、冷えたエール!」

「バカ! 声がでけぇ!」

「ムガムググ!」


 口をふさがれ、声が出せない。というか、近い! この人無自覚系美人だからスキンシップが過激すぎる。卒業してから、女性に対し欲のようなものが生まれ始めたので、こういう体勢は非常に困る! しかもこの人いい匂い! ノー下着派なので、感触もダイレクト! あぁっ、しこたま出したのにまた……

 逃れるべくさらにムガムガやっていると、ドロシーさんから救いの手が。男どもは状況を窺っている。お前ら同期だろ! 助けてくれや!


「その辺にしておきなさいな、ミラ。アレクが困ってるわよ」

「いや、しかしだな……」

「周りを見てみなさい。一部怖いことになってるから」

「あ? 周りって……」


 ミラベルさんはキョロキョロとあたりを見渡し、ある角度で固定された。俺もそちらを見ると……


「「……」」


 メルは炎を背負い、シーの周りはどうにも吹雪いている気がする。……気のせいだと思いたい。というよりシーの周りがおかしい。アイツのは水魔力だったはずだが……吹雪も水が凍ったものだからいいのか?


「あぁ、そうか」


 ミラベルさんはにたりと笑い―――


 俺のほっぺにギルドマスターのほっぺがくっついた。ほっ……セーフ……


「「アウトぉぉぉ!」」


 うそっ! どうやら気のせいでも幻でもなかったようで、メルとシーは本当に魔法を展開している。こんな狭いとこでそんなもん発動したら……唖然とする女子組。どうやらここまで嫉妬深いとは思っていなかったようだ。もちろん俺も。男子組は酒とつまみを避難させている。おぉい! 俺も避難させろぉ! どうすんだ、これ! 屋内だぞ! てか離せ! ミラベル、コラァ!


 えらいこっちゃと慌てるが、俺を離そうとしないミラベルさん。そして、落ち着いて冷えたエールを飲んでいるドロシーさん。ミシェレさんもいつの間にかこちらに。えっ? なんで? 今目の前で大変なことになってますよ? 管理人として止めなくてもいいんすか?


 もうだめだぁっと思いきや、ス……ッとミラベルさんは手をメルとシーの方へと向け、一言つぶやいた。


「ブレイク」


 揺らめく炎と舞い散る吹雪がピタリと止まる。困惑する2人。ミラベルさんは、2人に対しいつもより低いトーンで語りかける。


「今は酒の席だ。多少のことは見逃す。とりあえずそれをひっこめろ」


 元はと言えばお前のせいじゃねえかよ、と心の中で思った。口に出すなんてとんでもない。現在進行形で抱きつかれていて、身動きが取れん。2人とも魔法を引っ込めたがこめかみがヤバい。青筋がビッキビキだ。


「とりあえずアンタもアレクくん離し。それがいかんのやで」

「ん……? おっとそうか。はっはっはっ……惚れるなよ、アレク」


 ミシェレさんがあきれたようにミラベルさんに言う。今のどこに惚れる要素があるというんだ……だけどさっきのはなんだ?


「今のひょっとして魔術っすか?」

「おっ、わかったか? 今のは『ブレイク』っつってな、魔力の流れを食い止める術なんだよ。まぁ、あんまり言いたかないが使の魔術だな」


 魔法というのは魔法書を読み、頭に刻まれた魔法陣に魔力を流し、発動させるものだ。詠唱はあってもなくてもいいが、詠唱したほうが威力は強い。言葉に魔力を乗せることで普通よりも強めになるということだ。なんかメルがそんなこと言ってた。

 ……頭に魔法陣を刻むとか、俺も聞いたとき何言ってんの? と思ってたが、実際にいくつか白魔法を覚えて使ってみるとなるほどと思った。言葉にしてみるとそうとしか言いようがないのである。魔法陣を構成している記号や陣形に、魔力が全て行きわたると魔法は発動する。その流れを遮断することで、魔法の発動を食い止めたのだとか。発動した後、待機状態になっていても効果があるということで、先ほどのようにすでに発動していても、停止させられるようだ。


「めっちゃ便利」

「だろ? 魔法使いなんざこれで封じて、後はタコ殴りよ」


 身体能力ならウチが負けるわけねえし! と豪快に笑い飛ばし、酒を飲み始めた。しかし周りは今の騒動で冷え切ってしまっている。そんなことはお構いなしに、お姉さま方は酒をクピクピあけていく。他の連中もなんとなく気まずそうに、手持ちの酒をあけていく。特にメルとシーが腹立たしいけど気まずいという、複雑な感じになっている。……フォローしとくか。もともと俺のせいだし。


 そう思い席を立とうとすると、ミラベルさんが俺に問いかけてきた。


「そういやアレクよ」

「なんです?」


 静かなので、話していると妙に声が響くな。


「お前に給料形態の話したっけな?」

「え? 冒険者組合と同じじゃないんですか?」


 今までそうだったのにな。それとは違うんだろうか?


「あぁ、それはお前が冒険者もやってたからだよ。ハンターはクラス『D』までは固定給+歩合給になるんだ。その代わり、あたしから出す仕事は断れない」


 要は固定給出す代わりに、しょうもない仕事も割り振られるということのようだ。やりたいことだけやってりゃいい組合とは一味違うな。歩合給はその割り振られた仕事に対しての賃金が支払われるとのこと。ほぅ……ありがたい話だな。

 クラスが『C』以上になると、好きにしろって話らしい。もちろん例外もあるようだが。


「こまごまとした仕事をこなすことで、できる引きだしを増やす目的もある。バカみてえに魔物を吹き飛ばしてたら金が稼げる冒険者とはわけが違うからな。繊細な仕事人なんだぞ、ハンターってのは」


 なるほどなぁ……あとこれだけは聞いておきたい。


「ちなみになんですが」

「ん?」

「クラス『E』の固定給は……」


 新人より一歩リードの俺の固定給は果たして……?


「んーと……いくらだったかな? ドロシー覚えてっか?」

「金貨1枚と銀貨5枚よ」

「おーそうだった。ちなみに一番下の『F』は金貨1枚な」


 おっしゃああ! 宿代やら飯代やらに使ってまだおつりが出るほどの額じゃんか。


「あ、寮費は差っ引いて渡すからもう少し少ないかな」


 ……ちなみに寮費は銀貨2枚だって。それでもマシなのか……飯が朝と晩付くからありっちゃありなのか? あ、歩合もあるって言ってたし……もう考えるのやめた。とにかく毎月計算できる収入があるってことだ。


「みんなきばりや~」


 同期達はそれを聞いて、再び盛り上がり始めた。だが1人だけこの条件に当てはまらない者がいる。


「あの……あたしは……?」

「メルフィナは歩合だけだ」


 ミラベルさんの通告に、ガックリと肩を落とすメル。まぁまぁ、と同期の女子が慰めていた。うん、仲良くなったようで何よりだ。さて飲み直そう……


 あ、オスカーたちのこと話してないな……まぁ後でいいか。

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