第30話 研修説明会

2018・11・18 改稿


「……お前らなぁ、飲みすぎんなって言ったろ!」


 ここはギルドの会議室。ミラさんの怒号舞う中、頭を押さえ吐き気を我慢する若造ども。……言わんこっちゃねぇ。ウルは頭をぐらぐら揺らしながら、何かに耐えているような感じだ。ジェドは老け顔感がまし、顔がぱんぱんで無精ひげが生え、ただのおじさんのようになってしまっている。女子組の方は……確かスカーレットって言ってたっけ? 顔の表情が薄い、何ともけしからんロリ巨乳の緑髪の少女である。「操魔術」とかいう魔物使役系の聞いたことのない一族伝来の力を使うとか言ってた。相棒はストームウルフのテンペスタ。「テン」って呼んでほしいと、宴会に乱入させて一時大騒ぎになったことは記憶に新しい。てか、昨日だし。そのスカーレットを除き筆舌に尽くしがたい顔をしてしまっている。いくら好きで付き合っていてもアレを見てしまうと……ちらりと傍らのシーを見る。


「? 何? アレくん」


 歩いているうちに眠気が吹き飛んだのか、いつもの美少女ぶりである。ガバっとシーに堂々と抱きついた。


「ど、どうしたの? アレくん」

「出会ったころのキミで居てほしい」

「……何言ってるの?」


 本気で何言ってるのかわからないという顔をするシー。……シーはそのままでいいんだ。あんなヤバい顔をしてほしくない。抱きついたままそんなことを思っていると、


 ゴチィン!


「いってぇ!」


 げんこつを食らった。涙目で前を見ると憤怒の形相でミラさんが立っている。


「あたしの前でいちゃつくんじゃねえ! 独りモンの恨みつらみ、お前にまとめてぶつけてやってもいいんだぞ!」

「……すみません」


 頭どころか実力で来られたら、大変なことになってしまう。俺は即座に謝った。謝るのは早い方がいい。






 俺たちはのんびりとギルドへやって来たが、他の同期達は二日酔いを引きずりながらも先にやって来たようだった。少々いちゃついて一番最後に来てしまったことを反省したい。人によってはやる気がないとか言われそうだ。


 何故新人が全員集合しているかと言えば、これから研修期間があるからだ。今から行うのは研修説明会。研修期間は1週間。初めの3日は解体練習、納品、魔術関連の講義、素材の加工、模擬戦、と街中でできる事をメインに行う。残りの3日は樹海に出て、採取、討伐など実際に行う活動をじっくりと行う。なお最後の2日は野営を行い、樹海で一晩明かすこととなる。食糧調達、キャンプの設置、燃料の確保、夜間の見張りなどサバイバル生活をすることになる。

 実習ではバディと呼ばれる2人一組のペアを組んで行動する。冒険者のような固定パーティは基本存在せず、仕事の中身に合わせバディを選び行動することがハンターの基本だ。今回は時間を決めすべての新人とバディを組む手筈となっている。

 ちなみにだが、ハイクラスのハンターでない限りソロ活動は厳禁となっている。ハイクラスのハンターがソロ活動OKなのは、そもそも実力が違いすぎ、行動を共にすることが困難だからである。


「いいか、お前ら。ハンターの最終目標は1人でなんでもできることだ。全てのハンターがオールマイティ、それプラス自分にしかできないことができるのが一番だな。だが基本をおろそかにしてオールマイティなど鼻で笑うレベルの話だ。なのでこの1週間、みっちりと基礎を叩きこむ。そこでだ、あたしだけではさすがにこの人数は手に余る。だから……おーい! 入って来ていいぞ!」


 ・・・・・・


「あれっ?」


 やや慌てているミラさん。ひょっとして今ので誰かが入ってくる手はずだったのか? 入り口まで行き、扉の向こうを覗くと……


「誰もいねえじゃん!」


 うわぁ……恥っず。若干顔が赤い。心の声が聞こえてくるようだ。周りを見ると、全員気分悪そうな顔で俯き、笑いをこらえている。ジェドだけまったく隠せてない。お前そんなに笑ったら、あっ……


「何がおもしれえんだ! コラァ!」


 かなり大振りのフックがジェドのほっぺを直撃する。未熟者め。「ぶべら!」と回転しながらジェドは壁に激突。回転しているときに輝く何かがピューと飛んでいったが、まぁ別にいいだろう。そのままずり落ち、床に寝てしまった。ぴゅるっとゲロがちょっとだけ出ている。記憶が飛んでいた方が幸せだろうと思えるほどの威力だな。げんこつ程度で終わって、俺は幸せ者だった。……ちゃんと後で掃除しとけよ、ジェド。


 そんな暴行事件が起こっている最中に、ノックが鳴る。


「呼ばれてきたのですが、入ってよろしいでしょうか?」

「おせぇ!」


 理不尽。






 やって来た人たちは全部で3人。いずれも見たことがある、先輩だ。


「……マクシミリアン」

「クライヴと言います」

「ルーファスだぜ」


「「「「「よろしくお願いします」」」」」


「コイツらとあたしがお前らの引率に付く。実習は後半の実習から半日ずつバディを変えていくからな。7人だから1人余っちまうんだが……」


 ―――コンコン


 ミラさんの言葉が中断した瞬間にノックの音がする。ガチャリと返事も聞かず入ってきたのはノアさんだ。……この人けっこうせっかちだな。


「ミラ、冒険者辞めてきたって新人が来たぞ」

「ん~? 誰だよ」

「まぁ、連れて来たから後はそっちで話してくれ。……ほら、入ってくれ」

「は、はい」


 あれ? メルじゃないか。……え? やめた? 冒険者を? メルを会議室に迎え入れた後、「じゃあ、俺は仕事があるから」と言ってノアさんはどっか行った。入ってきたメルにミラさんはナイスタイミングとばかりに声を掛けた。


「おぅ。メルフィナじゃないか。冒険者辞めてきたのか?」

「はい。もういる必要もなくなっちゃったので」

「さよか。ちょうどいい」

「え?」


 本当にちょうどよかった。これで2人組が4つ作れる。そんな風にメルに説明するミラさん。


「本当にいいタイミングだったんですね」

「まぁな。細かい話は後でこいつらから聞いてくれ。もう一度話すのめんどくさい」

「はぁ……」


 それは言わぬが花じゃないかなって思ったのは想像に難くない。困惑するメルを置き去りにして、ミラさんが話を締めにかかる。


「とにかくだ。これから一週間みっちり研修だ。酒を飲むなとは言わん。だが節度を守り、次の日に残すな。街の外で泊まりになった場合、そんなことでは死ぬぞ。いいな。もう同じことは言わん。もしそんなことになって死んでも知らん。白持ちで戦いたいという奴が少ないのは事実だが、だからといってその程度の節制もできないようでは話にならん。そういうのはクラスを上げて、固定給じゃなくなってからやれ。歩合だけなら、次の日調子が悪くても休みにするのも自由だからな」


 それもそうだな。メリハリは付けなきゃならん。


「じゃあバディ分けするぞ~。アレクとアシュリー、ジェラードとディアーネ、ウォルターとシスティナ、そしてスカーレットとメルフィナだ。今から別れて研修すっからな。終わったらロビーに集合。そして各自、担当の指示に従え。あ、アレク」

「なんです?」


 そしてギルドマスターは無情な宣告をする。


「お前とシスティナとメルフィナは研修中は組ませないからな」

「「「えー!」」」

「そりゃそうだろ。研修中までイチャつかれてたまるか。お前らが悪いんだ。所構わずじゃれるから」


 そうだそうだ! と周りもはやし立てた。悪意は感じないが、空気を読め感が凄い。多数決で俺たちはあっさりと敗北した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る