第35話 アレクならいい
「どうだったでござるか?」
「どうもこうもあるかよ……」
昼飯を食うためと、バディの交代のためマーカムに一旦戻り、とある食堂で全員集合でランチ中である。男子組と女子組に別れているので、これはこれで気が楽だ。先輩たちとミラさんも違うテーブルだが、同じ店で飯を食っている。
ジェドが聞いてきたのは、ディアーネのことだろう。
「真面目そうなのに、過激でござろう?」
「お前……知ってたのかよ」
「当然でござろう。某は前半ディアとずうっとバディを組んでおったのでござるから」
コイツすでにニックネームで呼んでいるっ……‼
同期同士が距離を詰めていることに、ショック……は別に受けていないが、コイツ案外手が早いっ……
「? どうしたでござるか?」
「なんでもない」
俺にはメルとシーがいるし。他の男と他の女が仲良くなったからといってどうだというのか。
「んぐんぐ……そんなにか」
「ウルも運が悪かったらわかるかもしれんな」
食い散らかすかのように、メシをかっこみながら、会話に混ざってくるウル。……汚い食い方だな。こぼしたメシもキッチリ食うとこも流石だ。伊達にポッチャリをやってないな。
「お前も組めば分かるよ」
「ならば直接体験するとしよう」
……男前か、お前。聞けば昼からそのディアーネが相棒のようだ。
昼からは、バディを交代してもう一度潜る。俺の昼からの相方はスカーレットだ。……超不安。
昼からの組は俺、眠そうな顔で目がトロンとしているスカーレット、アクビをしているアフロのルーファス先輩だ。俺とスカーレットは並んで歩き、金髪アフロは後ろから特に何を言うでもなく手を頭で組んで呑気に歩いている。だが全員『サーチ』を使用しており、油断はしてない。
「ふぁぁ〜……ねみぃ」
……と思う。きっとあれがアフロのスタイルなんだよ。
スカーレットは、その隣を歩くテンを相方とした『操魔術』というのを使って狩りをすると以前話していた。何それ? と聞くと、
「一族伝来。番になってくれるなら話す」
と、にべもなく拒否。
「俺でいいのかよ〜」
アハハと陽気に笑うと、隣から視線を感じる。何だと横を見るとスカーレットはあまり感情の見えない目で、じっと俺を見つめていた。
「……どしたい?」
「……アレクならいい」
「「えっ?」」
俺とさっきまで空気だったルーファス先輩が同時に声を上げる。そこそこ問題発言だったと思うが、未だスカーレットは俺を見つめている。そこへ乱入してくる影が!
「お、俺は? スカーちゃん!」
今度はアフロ先輩をジッと見る。……沈黙が毒だな。
―――クイクイ
「ん?」
引っ張られた方を見るとテンが服の裾を噛んで引っ張っている。
「なんだ? 腹減ってんのか?」
「クゥン……」
「しょうがないやつだな。さっきメシ食ったばっかだろ」
苦笑いしながら頭をなでてやり、俺は腰のポーチから非常食の干し肉を出し、しゃがみこんで目線を合わせテンの鼻先に出してやった。クンクンニオイを嗅いだあと端の方をパクリ。咀嚼して飲み込んだら、ガバッと俺に覆いかぶさってきた。
「うおお…お?」
まだ欲しいのかと思ったら、顔を舐めてきた。わ、バカくすぐっ…クサッ生臭い!
勘弁してくれとじゃれてくるテンを押しのけようとしていると、スカーレットがこちらに来て目を……見開いてんだよな? 向こうではアフロが四つん這いで項垂れている。……なるほどフラれたか。
「スマンけどテンを何とかしてくれんか」
「……誰の食べ物ももらわないのに」
「え?」
スカーレットが「おいで」と言うと、素直に従うテン。あ〜あ……ベッタベタだ……クリーンアップを使い、汚れを取り除き立ち上がる。しかしさっきのはどういう意味だ?
「なぁスカーレット……」
「アレク、いた」
詳しく聞こうとスカーレットに話しかけると、何やら指さして言ってくる。指差す先にいたのは今回のターゲット『クビキリムシ』である。体長1メートルくらいの黒光りする巨体に左右3組の節ばった長い脚、毛が生えた触覚に、特筆すべきは頭に付いた体長の3分の2位の長さのギザギザがついたハサミである。そんなのが俺たちに背を向け、木にしがみついている。
「でっか……」
「えらく立派なモンついてんな」
アフロがなんか後ろで喋ってた。どうやら立ち直ったようだ。アフロが言うには普通のハサミよりちょっと大きいらしい。名前は物騒だが俺らでも対処できるって聞いてたが……
「手を出さなければ向こうは何もしてこない。先制は必ずコッチが取れる。だが向こうは気付いていると知れ」
もちろんアフロは土壇場まで手を出さない。なので俺とスカーレット、そしてテンで対処しなくてはならない。
「スカーレット、なんか案あるか?」
「突撃あるのみ」
……ご立派なことで。しかしそれほど選択肢があるわけではない。だいたいスカーレットは胸当てとすね当て、あとグローブを身に着けているだけであとはナイフ一本ぶら下げているだけである。有り体に言えば丸腰である。
「……自信満々だったからツッコまなかったが、丸腰で大丈夫か?」
「アレクには、初めて見せる。刮目せよ」
そう言うと、スカーレットから白い魔力が吹き出し、テンに纏わりつく。それに呼応するようにテンからも緑色の『風』の魔力が溢れ、こちらはスカーレットにまとわりついた。何が起こるのかと思ったら、スカーレットに変化があらわれる。スカーレットにまとわりついた魔力が形を変え、狼の形へ変化。そのままスカーレットは手を付き4本足の体勢となる。
「アレク、突撃準備はいい?」
「オーライ、お任せあれ」
まぁ俺にも内緒にしていることがあるから、あれにはツッコむまい。とっとと強化を済ませ、ナイフを2本抜き、準備万端。
「ゴー」
作戦もクソもなかった。同じ所からかかっていってもしょうがないので、スカーレットの反対側から行くことにした。なので左右から挟み撃ち、ただそれだけである。
「おぉ〜、二人ともやるねぇ」
実際クビキリムシは、☆5つのランクがつけられている。なので駆け出しに相手なんかできるわけないのだが、あの2人と1匹は軽々と対応している。クビキリムシの攻撃方法は然程難しい動きをするわけではない。頭についている2本のハサミと触覚を使ってくるだけだ。ただし後ろの甲羅を開き、透明な羽根を羽ばたかせながら突進し、懐に潜り込まれてしまえば、ハサミが閉じ首チョンパ。名前の由来はこの必殺攻撃にある。だが正面しか対象にならないので、どちらかに狙われれば、どちらかがガラ空きになる。だから、1人で対応しない限り難易度はかなり下がる。
スカーレットは単純に『2』であるため、1人で向かってくるアレックスに照準を合わせたのだろう。クビキリムシはハサミをアレックスに向けた。
「所詮は虫畜生か……」
ルーファスの目には、アレックスがわざとハサミの距離に潜り込み、両手のナイフでハサミを完全固定。そのスキにスカーレットが相手の腹部分に潜り込み腹をぶち抜く姿が映っていた。
「お見事」
長引くと触覚をムチのように使ったり、ハサミを槍のようにして突貫してくるなど最後っ屁のような攻撃をしてくる相手に対し、即席の連携であっさり仕留めた。
「あることないことメルフィちゃんとシスティちゃんに喋っちゃおうかな〜」
「うえ〜い」とハイタッチする2人を見て、ちょっとイラッとしたルーファスはささやかなイタズラを思いつくのだった。
「嫉妬は愛し合う人たちにとってスパイスだよな」
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