第36話 とと様そっくり

 ―――日帰り樹海の夜。寮の食堂は奇妙な緊張感に包まれていた。同輩、先輩が面白そうに見守る(?)中、その茶番は行われていた。……いや茶番なのは周りからだけであって、俺含む当人たちは至って真剣なのだ。……ホントだぞ!

 ではどうしてそんなふうになったかというと……


「ねえ、スカー。ちょっとそこあたしたちに譲ってくれない?」

「……ダメ。そっちが空いてるからそっちに座ればいい」

「……」


 俺の隣にスカーレットがどっしりと座っているからだ。俺とメルたちの関係性は既に寮生の中でもお察しである。だがそこへ急遽乱入してきたスカーレットに、一同戸惑いを隠せないでいる。


「ウル」

「なんだ、ジェド」

「今日アレクたちに何があったのでござろうか?」

「……知らん。だがスカーレットが火種であることは間違いないだろう」

「見たままでござるな」

「……」

「あんな修羅場経験してみたいでござる」

「正気かキサマ」


 野郎共は、面白そうにコチラを眺めつつも首を突っ込む気はなし。続いて女子組。


「ねぇディア、あれどう思う?」

「どうもこうも……見たままじゃない。まさか、スカーが参戦するとはね」

「勝算は?」

「……今のところゼロじゃないかしら。スカーには悪いけど、あの3人の中に割って入るには並大抵のことじゃないわよ」

「だけど一歩も引いてないよ」

「大した胆力だわ。あんな子だったのね……」


 ふむ。俺たちの関係はそんなふうに見えるのか。すると聞こえていたのか、スカーレットがグリッとアシュリーたちの方を向く。‘ビクッ’となるアシュリーとディアーネ。そしてスカーレットは感情の読めない顔でのたまった。


「アレクは婿殿。これは決定事項」

「「「ハァァァ!!?」」」


 俺、メル、シーの声が被る。なんだか嬉しい。……いや、そんな事を思っている場合ではない。


「……どういう事?」


 俺がスカーレットの方を向いて、問いかける。するとスカーレットはまた感情の読めない顔でこちらを見つめる。


「アレクの魔力の色はキレイ」

「……で?」

「?」


 首をかしげるスカーレット。何だかかわいい……いやいや…いだだだだだだ!痛みの方を見るとシーが俺のわき腹を抓っている。


「イテーな! 何すんだ!」

「べっつにぃ〜」


 明らかにほっぺを膨らませながら、むくれるシー。膨らんだほっぺを人差し指で突くと、「プフュ〜」という音が、シーの口から漏れた。あぁ……癒やされる……


 ―――ビタァン!!!!


「うべっ」


 変な声が口から出ながら、俺はギュルリと半回転。食堂の床に這いつくばることになった。へへっ……メルのビンタはきくぜ……


「お前はムグムグ、本当にあれに混ざりたいとのたまうのか?」

「……暴力は良くないでござるよ。某の目指すハーレムは皆良い関係でござる」

「……キサマ正気か」


 薄れゆく意識の中、頭の上からそんな声が聞こえた。





「結局どういうことなの?」


 目を覚ますと先程のやりとりが続いていた。俺は倒れたままだった。……誰も介抱してくれなかったのか。つれない。


「とと様言ってた。婿にするならキレイな魔力をしている男にしろって」

「……それが理由だって言うの?」

「そう」


 スカーレットはそれ以上口を開かない。どうやら言いたいことは言ったようだ。……だが俺には少し気になる単語があった。なので口を挟む。


「なぁ、キレイな魔力ってどういうことだ? ただ白いだけじゃないのか?」


 メル、シー、スカーレットは同時にこちらを向く。「大丈夫か」のひとこともなく、場は進行していく。周りは静まり返り、「ジュッジュッ」とミシェレさんが何やら炒めている音だけが聞こえている。しかし、ミシェレさんはこちらをガン見である。よそ見をしながら料理ができるのは、さすが寮母といったところか。……だがデバガメ感がハンパない。


「アレクの魔力は、全てを内包するような感じ」

「……それだけ?」

「……? ……」


 うんうん首を捻るが、やがてコクリと頷いた。どうやらそれだけらしい。


「それだけで婿って……正気?」

「参ったね〜。シンプル過ぎてツッコミどころがないよ」


 いやあるだろ。それだけでなんで婿なんて話に発展すんだよ。俺は素直にそう言うと、スカーレットはちゃんと答えてくれた。


「操魔術に関係がある」

「あの一族伝来ってやつか?」

「そう。あれは誰でも使えるものじゃない」

「なら俺も使えるってことなのか?」


 俺が婿にって話になるなら、子孫を残すという意味で、必要とされていると思うのはそんなに難しい話ではない。たとえ俺が操魔術を使えないとしても。


「応えてくれる魔物を探す必要はある。でもアレクなら多分できる」

「根拠は?」

「アレクの魔力の色、とと様そっくり」

「……それだけ?」

「それだけ」


 だけかよ。だけど樹海で見せてもらった、操魔術はなかなか良さそうだった。相棒がいるというのも嬉しいかもしれない。……得体のしれない力ではあったが。


『おいおい、つれないこと言うなよ、相棒』

『私達はいつも主様のおそばに控えております』

『ほっほ、そのとおりでございますよ』


 脳内に変な声が聞こえた。多分気のせいだろう。……つか、久しぶりに聞いた気がするな。


「これ以上は話せない。知りたくば私の婿になるべし」

「ダメに決まってんでしょ!」

「アタシはもともと2号のつもりだったしな〜。3号だったらいいんじゃない?」

「何言ってんの!? シー! アレクはあたしたちのものよ!」


 メルさん、いや嬉しいんですよ。嬉しいんですけどね……シーが2号のつもりだったとか、哀しいカミングアウトをしたところで、


「所有物扱いは勘弁してもらえませんか……」

「アンタはあたしのものなのっ! ……! あたしたちのものよっ! 3号なんて許さないっ!」

「お姉ちゃん、今さり気なく、アレくんのこと独占しようとしたでしょ」


「フュ〜、ヒュ〜」


 ……なんて下手な口笛なんだ。メルはごまかすつもりはあるのかもしれないが、全くできていない。戦慄するレベルである。


「もう一度聞くぞ? 本当にあれに混ざりたいのか?」

「……あんな修羅場はゴメンでござるよ。某が望むのは、全てのオナゴが平和に仲良くする桃源郷でござる」

「死ね」

「ひどいでござるよ!」


 ウルとジェドは相変わらずであった。……あぁ、三馬鹿でいたい。だいだいいつおわるんだ……? これは……

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(未完)置き去り男の最強譚 Reboot お前、平田だろう! @cosign

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