第25話 頭が上がらなさそうな人

「「「……」」」

「なんか言うてぇなぁ~……」


 えらく高いテンションで歓迎されたので一瞬呆けてしまった。メルとシーも同様のようである。


「あ、すみません。ミシェレさんのテンションついてけなくて……」

「そんなんやったらここでやっていけへんよ~?」


 ……あのテンションに付いていかなきゃならんのか。ちょっとゲンナリするな。


「はじめまして。メルフィナといいます」

「……システィナです」


 メルはともかく、シーはテンションの合わない人だと途端に人見知りが出るんだよなぁ……ノアさんの時は大丈夫だったのに。

 ミシェレさんはうんうんとにこやかに頷くと、こちらを見た。おっと、次は俺の番だな。


「アレックスです。以後よろしくお願いします」


 そう言って頭を下げた。


「うんうん。ええ子らやね。ちゃんと挨拶できるし。先に来た子らもええ子やったわぁ」

「先に来た子? ですか……」


 俺ら以外にギルドの新人いたのか。ノアさんのスカウトも順調なのかねぇ。


「そやで。君らの同期がこないだから徐々に入寮しとる。聞いてる限りやと、君らで一端、新人勧誘打ち切る言うとるさかい、全部で8人やね」


 まぁまぁ多いな。毎回こんなに入ってくるもんなのか?


「片っ端から入れても、教育が行き届かんからある程度で打ち切るねん。当然仕事は命がけやし、減ったらまたスカウトしていくけどな」


 なるほどなぁ……勝手に強くなれ、死んでも知らん、いくらでも入ってくるとかいう理念の冒険者組合とは全然違うな。そんな風にぼやくと、


「そらそうやで。狩りってのは技術職なんや。冒険者みたいにただただ魔物を殺したらええ仕事とはわけが違う。殺した後、のがウチ等の仕事なんやで。傷は最小に。これが基本や。ただの殺しなんか冒険者に任せといたらええねん」

「……厳しいわね」

「やり方考えないと……」


 シーはともかくメルはなぁ……高火力で丸焦げにするのが基本だし、シーは『水』だしやりようによってはなんとかなりそうだが……どちらにせよ大幅なスタイル変更が必要にはなるだろうな。


「まぁ、そんなんこれからじっくり考えたらええ。とにかく歓迎するよ。今日は歓迎会やな。腕がなるわぁ~」


 ぶんぶんと右腕を振り回すミシェレさん。……ホントに腕が鳴ってんぞ。なんちゅう勢いだ……


「部屋に案内するわ。付いてきてくれる? あ、そうそう」


 先導し始めたミシェレさんがくるっと回り、にっこり笑ってこちらを指さした。


「寮の中では不純異性交遊禁止な」

「「えー!!!」」


 不満そうに叫ぶのはメルとシーだ。俺は別に叫んでない。


「そらそうやん。寮内は男女混成、めんどくさいから男女分けるとかしてへんし。壁も薄いからヤってたらもろバレやし。……アンタら声出さへん自信ある? あってもヤったらアカンよ。独り身の人ようさんおるからね。共同生活はちゃ~んとマナー守ってや」


「声は何とかなるけど、寮が揺れるからダメ」だと。例が具体的だな……


「大人の女、ナメたらあかんよ~」


 色々な意味で、頭が上がらなさそうな人にまたしても出会ってしまったのか……






 ミシェレさんに部屋へと案内されると、「今日の晩御飯は宴会やで~」と言ってどこかへと行ってしまった。

 部屋は寮の3階にあり、メルとシーはその左右に部屋をもらっていた。今回は別々の部屋みたいだ。


『狩寮』は3階建てで、各階に10の部屋がある。部屋の大きさは全部同じだが、西と東に5つずつある。俺たちの部屋は西側なので……


「「「あっつ……」」」


 西日がもろに入る部屋になってしまった。冬はいいんだろうけど、今は徐々に熱くなる季節なのでこれから厳しそうだな……


 とりあえず荷物を出さなきゃならん。


「オスカー、荷物出してくれ」

『畏まりました』


 にゅるりと俺の荷物が全て部屋に並べられた。


「……さっきも見たけどデタラメね」

「結構便利なんだぞ」

「アタシのカバンも出して欲しいかな」


 シーのリクエストに応え、カバンを出してやる。メルはどうする? って聞こうとしたが、


「あたしの部屋で出して欲しいわ」


 メルのほうに顔を向けるだけで、聞きたい答えが聞けた。以心伝心か。分かりあっている感じがうれしいけども。まぁ、そりゃそうだわな。あんなきったねえ部屋の物を片っ端から収納したんだから。


 メルの部屋へと移動し、オスカーに荷物を出してもらったのだが……


「わぁ……」


 胸の前で両手を合わせ喜ぶメル。それはなぜかと言ったなら、


「綺麗にたたまれてんな」

『サービスでございます』


 オスカーの粋な計らいにより、適当に収納した衣類がきっちりとたたまれ、整理されて出されていた。


「すごいわね。アレク。こんなことが出来るなんて」


 そっすね。俺も初めて見たわ。てか身支度から片付けまでできるとか、まるで嫁じゃねえか。料理までできたら完璧。


「そうだな。俺もビックリしたわ」

「じゃあ、片づけもアレクに任せようかしら」

「嫌だっつーの!」

「なんでよ!」


 何でもかんでも俺に任せようとするメルにシーが苦言を呈す。


「お姉ちゃん、いいの? 何でもかんでも寄りかかったら、アレくんお姉ちゃんのこと嫌になっちゃうんじゃない? 自分のことは自分でやらないと」

「……それは困るわね」

「……早く片付けて宴会に備えようや」

「「は~い」」


 返事だけはいいんだよな……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る