(未完)置き去り男の最強譚 Reboot
お前、平田だろう!
第1話 俺と彼女たちの事情
2018・10・11 改稿
神山『ロマ・ヘルム・ベルン』。大陸の中央、『オルムステッド王国』のさらに中心に位置する人類不可侵とされる山である。誰も正式名称は知らない。ただ”神山”と一般には呼ばれている。
山の頂は雲に覆われ、高さも全容もまるで分からない。山の周り360度は全て深い森に囲まれ、まるで山を守るかのように、凶悪なモンスターが蠢く。浅い部分には森の恵みがふんだんにあり、荒事を生業とする冒険者と呼ばれる、命の保証がされない非正規雇用者が、魔物をかき分け恵みにあずかり、またある時は魔物そのものを目的として日々森へと侵入する。
ある程度まで入り込めばそこは深域。天から降り注ぐ光も圧倒的な緑に遮られ、常に薄暗く視界を制限する。ただしそこに存在するものは浅域とは比較にならない高価値のものがそこかしこにあり、経験の浅い冒険者からしてみればまさに宝の山。毎日小銭を稼ぐ必要もなくなるくらいのメシの種がそこにはある。
……ただし、そこで生き延びることができるほどの力があればの話だが。
腕を一振りすれば体がちぎれ飛び、唾液が滴る牙に貫かれれば傷口から体が腐り始め、生きて森を出ることなど不可能。常に全力を強いられ、半日もすれば体力は尽きる。そのような者はただのエサへとなり下がる運命のレールに乗せられる。その餌を巡り化け物たちは奪い合う。それすらさらに上位の魔物によって蹂躙されるのがこの森のルールとも呼べないルールである。”弱肉強食”、ただ食うために生きる、または生きるために食うという、どちらが先か分からないような生々しい現実がこの森には存在する。
さらに森は6体の『王』と呼ばれる森のあらゆる存在の上位カーストの特別な個体によって管理されているとされる。される、と伝聞調なのははっきりしたことが分からないから。誰も討伐できない。見たものは生きて帰れない。もしかしたら生き延びた者もいたかもしれないが、どんな理由があったのか、そのような伝説級の、後世まで語り継がれるような英雄譚は今のところ紡がれてはいない。ただそんな主たちの気まぐれで、森を探索することを許されているだけなのだ、人は。
そのような恵みと災いを内包する森を囲うように6つの大都市が存在した。
『円環都市群』
王都オルムス、副都ヴィオランテ、公都マクルーアという王家に連なる血筋の者が治める都市を各々サポートするべく『カーライル』、『マーカム』、『オトゥール』という衛星都市が置かれている。衛星、と言っても実際は行き来するだけで10日はかかるほどの距離ではあるが、一括りにされるだけあってやはり特別なのである。
しかし、なぜそのような呼ばれ方をするのか詳細は一切不明。ただ森を等間隔で囲うように6つは位置し、森の形に関わらず『周回路』と呼ばれる舗装された道が、各都市6つを結んでいる。ただそれだけの話だった。
そんな円環都市の1つ、副都ヴィオランテの衛星都市『マーカム』に1人の低級冒険者の少年がいた。名をアレックスと言い、歳は18、茶色の髪に灰色の瞳を宿した、比較的前向きに物を捉える中肉中背の少年だった。だったということは”今はそうではない”ということである―――
「じゃあ……行ってくるわね、アレク」
「あぁ……行ってらっしゃい」
「アレくんもがんばってね……」
「あぁ……」
ギィィィ……バタン
宿の扉を開けて出ていったのは、俺のパーティメンバー―――メルフィナとシスティナだ。双子の姉妹であり、見た目だけで見分けるならそんなに難しいことではない。……どうにも最近よそよそしいのだ。
姉―――メルフィナは妹システィナよりもやや背が高く、腰まである金髪で蒼眼、腰から足にかけてのラインが自慢だと聞いたことがある。見せつけるように網タイツにホットパンツ、チューブトップと本当に冒険に行くのか?と言わんばかりの薄着である。そんな恰好をしているくせに、『火』の適性魔力を持ち、魔法をメインで使っていく『魔法使い』なのだ。相手の攻撃が届かないところから、火をぶちまけるたちの悪い放火魔だと俺は思っている。やらかした後の火消は文字通り大変なのだ。もちろん口になど出さない。そんなことをすれば気が短く手が早いアイツは速攻で顔面にグーパンをかましてくるだろう。もちろん経験済みだ。
妹―――システィナは対照的に表向きは物静かで、思慮深い。しかして実態はただ口が悪いだけのお姉ちゃん大好きっ娘である。普段無口なのはメルフィナに「表で口を開くな」と言われているだけだ。適性魔力は『水』。圧力をかけて何でもかんでもぶった斬ったり、陸に居ながら溺れさせたりと、発想によってはかなり凶悪である。もちろんそれを見たからここで紹介するわけだが。こやつも魔法使いであり、後ろから魔力の豊富な姉と共にいろいろぶっ放す。そんなところは双子である。
双子でないのはスタイル、そう、スタイルである。戦いの、ではなくいわゆるボディラインのことだ。胸は”爆”、くびれは普通、尻は安産型というやや母性を意識させる何やらがある。もちろん”爆”を何の加工もしないでブラブラしようものなら、あらゆる男が前かがみ。ならないのはオネエだけだろう。ただ人目に付くのはわかっているらしく、サラシを巻いてローブを着ることで、周りに影響を与えない程度に抑えている。加えて地味目のメガネをかけ、地の可愛さを押し殺そうとしている。しかしながら、世の中には『メガネフェチ』なる謎の性癖が存在し、それを内包するものを一瞬で打ち抜く、場所を選ぶ兵器となっている。そんなことも知らずに彼女は変装が完璧だと思っているので、俺は残念で仕方がない。
”動”と”静”、ある意味対照的で、ある意味セットな2人はいろんなところから勧誘がある。もともと虫除けとして俺は2人とパーティを組んだのだが、俺が虫除けとして機能していないのが問題なのである。
―――パーティ内格差
組み始めはお互い気が乗ったからで済む話なのだが、組んで仕事をこなすうちに経験は同じでも実力に差が出始めるのだ。俺は冒険者歴3年とある程度長くなってきたが、彼女たちは俺と1年違いの2年。なのに今現在、俺は”8級”、彼女たちは”5級”とかなりの差が開いている。魔法使いは希少であるため、等級が上がりやすいという冒険者組合の方針があるのだが、もう1つ組合の方針が存在した。
―――『無』属性の魔力適性の者は、等級審査をシビアに行う―――
まあ、ようは差別である。『白』を持つ人間は例外なく魔力の量が少ないのだが、それに加えて、使える法定式が”生活魔法”と呼ばれる式しか使えない。体の汚れを落とす『クリーンアップ』、火種を打ち出す『イグニス』、水を沸かしてお湯にする『ボイル』など、あれば便利!……でも戦場ではちょっと……といったような式しか使えない。ゆえに魔物の殺し屋と呼ばれる冒険者にとっては、『白』持ち、―――通称『色白』の連中など侮蔑の対象にしかならない。どういうわけか冒険者という連中は、他人を貶め自分を上げるという結局自分は何一つ変わらないという方法で地位を上げていくのが定番らしいのだ。
で、俺が虫除けとして機能しないのは、俺が『色白』であるということが原因なのである。
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