第2話 俺と彼女たちの事情2

2018・10・15 改稿


「じゃあ行こうか。2人とも」


 そう爽やかに言い放つのは、最近2人が組んでいるパーティ”パンディック”のリーダー、ランドルフだ。

 半年ほど前、うっかり森―通称樹海と呼ばれる―の深域近くまで入り込んでしまい、凶悪な魔物に襲われかけたところを連中に助けられた。ちなみに俺は奴らが来る前にその凶悪な魔物に襲われ動けなくなっていたので、俺は助けられたとは言えなかったが。それ以来、ちょくちょく2人はランドルフと言葉を交わすようになり、やがて一緒に仕事に出かけるようになった。時期を同じくして俺とは疎遠になり始めた。治癒院から退院した後は、朝の支度を手伝わされるだけで、一緒に仕事をしたことはない。もうそういうふうになって結構経つ。もちろん俺に声はかからない。彼らが必要としているのは、彼女たちだけなのだから。


「アレックス、今日も2人を借りていくよ」

「あぁ……」

「……辛気臭い返事だね」


 誰のせいだよ。お前らが横紙破りでよそのパーティのメンバーにコナかけたりするから、俺は辛気臭くなるんだよ。

 実は冒険者組合には、1つ言葉が存在する。


『よそのパーティメンバーにはちょっかいかけるべからず』


 という暗黙の了解のようなものがある。当然、ルールとしてあるわけではないので、別に破ったって問題ない。だが、マーカムでもトップレベルの連中がそれを行うことによって暗黙の了解は崩壊し、優秀な人材には続々とスカウトの声がかかる。スカウトに応じれば、残るのは当然カスだけである。幾人もの冒険者がパーティの柱となる人材を持っていかれ、廃業に追い込まれているのはなぜだか他人事とは思えない。もちろん結びつきの強いパーティも存在し、少しずつだが前へ進んでいる連中もいる。だが、命と利益を天秤にかける冒険者にとって、少しでも利益になる上の等級からのスカウトというのはとてつもなく魅力的に見えるようだ。


「色白にはメルとシーはもったいないよな。俺だったらちゃんと可愛がってやるのによ」


 軽薄に俺に言ってくるのは、斥候役のマルコ。『風』の魔力を持ち、スピードを活かした短剣術を主に使用している。サブとして弓を。2人をあだ名で呼ぶのは、距離を詰めていることを俺にアピールするためなのか、非常に腹立たしい。くそチビめ。


「……そういうことを言うでない、マルコ。こやつとて努力はしているに違いない」


 やや口下手な話し方をするのは、盾役のオリバー。『地』の魔力を持ち、あらゆる敵の攻撃を引き寄せいなし、パーティにチャンスを手繰り寄せる役目だ。口ぶりから察するに『努力は認めるけど、結果に結びついてないよね』と言いたいみたいだ。非常に腹立たしい。あとデカい。


「無駄な努力などやるだけ無駄だ。とっと解散してしまえ」


 朝っぱらからなんなんだお前は。暴言を吐くのは元々の魔法使い枠『火』と『風』の2つの適性魔力を持つユリウス。伊達に2つは持っておらず『暴炎』とか二つ名をどこからともなく、何なら自分でも名乗っている。自称だけならまだしも他称もあるのが非常に腹立たしい。陰険メガネめ。目つぶしでも食らわせてやりたい。


「その辺にしておこう。彼も努力しているのだから」


 セリフとは裏腹にランドルフの目つきは俺を見下している。わざわざ顔を上に向けて、目だけを下に向ける丁寧さには恐れ入る。


「じゃあ、またね」


 そう心にもないことを言って、パンディックの4人は俺がホームにしている宿”カナリア亭”を出ていった。もちろんメルとシーには聞こえないように嫌味を言うところがこれまた嫌らしい。ついでに俺に跳ね返すほどの力がないことはとても腹立たしい。


「……アンタも朝から大変だね」

「女将さん。おはようございます」

「はい、おはようさん。朝ご飯どうする?」

「もちろん、いただきます」

「あいよ」


 キッチンの奥から持ってきてくれたのは、ボアの焼き肉と野菜たっぷりのスープにちょっと硬めのパンが2切れ。後は、早朝に牧場から届けられたしぼりたての牛乳だ。これが非常にうまい。


「いただきまーす」

「はい、おあがり」


 朝から笑顔を向けてくれる女将さんだけが、今の俺の癒しだった。メルとシーは最近宿で朝飯を食べずに、パンディックの4人とどこぞで豪華なモーニングをいただいているそうだ。……もちろん本人たちではなく、人づてに聞いた話だが。






『あの子たちは最近ウチのご飯を食べてくれないねぇ……』


 とさびしいぼやきをいただいた後、俺は冒険者組合へと赴いた。冒険者組合とは街やら国、そして個人からの依頼を一手に引き受け、冒険者へと割り振るいわゆる互助組合である。等級に応じ、適切な依頼を振り分け、各種手続きを代わりにすることによって冒険者たちに仕事に集中してもらおうという古くから存在する組織である。


「アレックスさーん。そろそろ解散してくださいよー」

「……」


 ただし、古くから存在する故にしがらみはガッチガチなのだ。貴族の介入は当たり前、組合からの冒険者に対する介入もあたりまえ。一応あるのだ、規約は。


 ―――組合は冒険者たちに介入することはない


「そんなの建前に決まってるじゃないですかー」


 さっきから語尾が間延びするコイツは、俺専用受付嬢『ビアンカ』である。話し方を聞けば分かるようにただのアホの子だ。どうも断りきれない伝手から押し付けられたらしく、言っちゃいけないことをズバズバと言い放つ。


「……そんなことメルとシーに言えばいいだろうが」


 やや語尾を荒げて言うも、ビアンカは全く意に介せず、


「ウチが仲良くしたいのはメルフィナさんとシスティナさんですよー。そんなこと言うわけないじゃないですかー」

「俺だったらいいのかよ」

「いいに決まってるじゃないですかー。あなたとは別に仲良くしたくないんですしー」


 歯に衣着せないその言い回しに、もはや何かを言う気にもなれなかった。


「……とりあえず、今日の仕事くれ」

「はーい。わっかりましたー」


 赤い髪に青い瞳。そばかすが散らばっているものの、美人と言って間違いないビアンカだが、なぜか俺専門となっている。

 俺には組合から専門の依頼が回ってくる。もちろんいい意味ではなく悪い意味でだ。


「ええっとー……これで全部かな。はい、よろしくお願いしますねー」


 そう言って、今日の仕事は終わったと言うがごとく、職員休憩所の中に入っていった。


 手元に置かれたのは、低級冒険者が冒険のなんたるかを学ぶべく、こなしていく依頼。街の雑用やポーションなどの薬品の材料の採取の仕事。俺以外にも低級冒険者はいるのだが、色白の俺にこういったものは全て俺に回される。ようは組合からの嫌がらせを俺は受けているのだ。こういう基本的なことをできてこそ冒険者はやっていけると思うのだが……


 等級を上げるためには、どうしても討伐依頼というものをこなさなければならない。しかも採取の最中偶然出くわしたものを討伐してもカウントされず、ちゃんと討伐依頼を受けた状態での討伐でないと、組合には認められないのだ。あまりにも強大な魔物の討伐をすれば考慮の余地はあるのだろうが、本当のところはどうか知らない。俺だけに適用されている可能性もあるし。おそらくだが、ある条件を満たせばこの嫌がらせは終わるかもしれないという予測は立っている。それは……


 ”パーティを解散すること”


 ようはメルとシーを自由にすることが、組合が求めていることだと俺は思っている。

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