第9話 立場の違い

2018・10・21 改稿


「今日は3人で朝ごはん食べてくれるのかい?」


 暴力的な何かも全くなく(メルは少しめんどくさかったが)、支度を終えた俺たちは、カナリア亭の食堂で朝飯を囲んでいた。……本当に久しぶりだ。女将さんの一言もそれを裏付けている。俺は朝飯の目玉焼きをかじりながら、2人に聞いてみた。


「アイツらはいいのか?」

「ん? ……あぁ、ランドルフたちのこと?」

「……朝から名前出すなよー……飯がまずくなるじゃん」

「……お前ら好きで行ってたんじゃないのかよ」


 メルもシーもとても嫌そうな顔をして、サラダを口に運んでいる。この2人、メシを食う時は微妙にシンクロするのだ。にしても……なんでこんな顔してるんだ?


「そんなわけないじゃん。顔つなぎだよ、顔つなぎ。誰があんなのと好き好んで……」

「ちょっと、シー!」

「おっと、口が滑った」

「もっと滑らせなさい」

「え?」

「あたしは思っても口にできないたちだしね。アンタが言いたいこと言ってくれるとあたしもすっきりするわ」


 ……解散しようとしていた気持ちのいい朝が、何やらおかしな雰囲気になってきたな。どんだけ……つか、ウソつけメル。言いたいこと言いまくりだろ。


「じゃあ遠慮なく。ランドルフは見た目イケメンなのに口が臭い」

「そうね」


 ランドルフの内臓はちょっと傷んでるのかな? 若いのにかわいそうに。


「マルコはチビのくせにモテると思ってる」

「確かに」


 声を掛ける数は尋常ではないようだが、それに応えてくれた人は少ないと聞く。「そんなに美形でもないのに、なんであんなに自信があるんだろ? ぶっちゃけキモい」と、聞いた方がかわいそうになるほどのコメントを頂いたことがある。徐々に噂が広まり、マーカムでナンパが成功する確率は低いと思われる。


「ユリウスはただただ感じ悪い」

「わかるわ~」


 わかんのかよ……まぁ、陰険メガネだししょうがないかな。


「オリバーさんは……不思議と嫌な感じはしないかな。お父さんみたいな感じ?」

「わかるわ~!」


 わかんのかよ! 子供の悪口みたいだが……好いている感じはまるでしないな。だが、思っているよりパンディックの人間性の評価が尋常じゃなく低いな。一応命の恩人だったはずだけど……2人の評価の中で一番気になるのが……


「オリバーだけなんで? しかもさん付けだし」

「なんで? ……って言われても」

「ん~……嫌な目で見てこないんだ」

「お前らいつも嫌な目で見られてんの?」


 つか嫌な目ってどんな目だ? そう聞くと、


「何か品定めというか……なんというか……」

「……パーティに迎えたいとかそんなじゃねえの?」


 新しく迎えるパーティメンバーを見定めるなんて、冒険者としては普通だろ。命預けるんだし。周りの評価と実際の実力の乖離なんて良くある話なんだが……


「え~! ないない。あんなのと一緒にやってくなんてムリ! 臨時だからできるんだよ、アレくん!」


 ??? シーの拒絶が凄い。これから重大な結論を出そうとしているときに、妙なことを聞いてしまった。やっぱりやめるか? いやいや……ついてけないのは事実だし……


 結局飯の味が、全然分からなくなってしまった。女が分からん。今日の2人はまるで……


 ―――かつての2人のようだ。


 パンディックが現れる前の、2人のすべてを疑うことがなかったあの頃のような……ただの芝居なのか? それとも本当にそう思っているのか? 


 わからない。やっぱり一度距離を置くべきなのか、このままメルとシーと一緒にやってくべきなのか。……たかが18の小僧が言うのもどうかと思うが、


「女心とは難しい……」


 ひっそりと、しかし確かな魂の叫びをあげてしまっていた。






「ねぇ、アレク。今日の仕事ってなんなの? わざわざ前日に声掛けてくるんだし、決まってるんでしょ?」

「……まぁ、そうだな」

「歯切れ悪いねぇ。ひょっとしてあんまり言いたくないこと?」


 ……シーは案外鋭いな。「実は解散するつもりなんだ。HAHAHA!」とか言えればいいんだが……どうにもさっきの話が気になるんだよなぁ……


「……まぁ、行けばわかるよ」


 また迷い始めた俺は、そう言葉を濁した。






(……やっぱりアレくんの様子がおかしい)


 システィナは、アレクの様子がおかしいことにすでに感づいていた。名前の件もそうだが、特に『今日の仕事』に対して、明確な返事が返ってこない。いつもなら、


『今日は薬草を取りに行こうと思う』

『今日はキノコを……』

『今日は……』


 必ず何をするかを明確にしていたのだ。しかし、どうにも今日のアレクは歯切れが悪い。自分(達?)に対して遠慮のようなものを感じてしまっているシスティナ。それに対してどこかさびしさを感じていた。


(実際問題、あんな風にしてしまったのはアタシらだとは思うけど、ちょっと遠慮しすぎじゃない?)


 ここに、アレクと双子の認識の誤差が出てしまっていた。双子は強者であるが故に、『言いたいことはキチンと言え』という考え。

 一方アレクはといえば『俺程度がとやかく言っても所詮は弱者の戯言』といった感じに。


 確かに結ばれていた絆は、こうした立場の違いによって明確に分かれてしまっていた。お互いに思いあっていることは確かであるはずなのに……

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