第14話 解散に至るあれこれ

「ちょっと! どういうことよ!」


 時は少しだけ戻り、会議室にて。ビアンカは普段のけだるげな喋り方をやめて、マテウスに詰め寄った。マテウスは煩わしそうに、ビアンカを振り払う。


「どういうこともこういうこともそういうことだ」

「結局どうなのよ!」


 マテウスが本気で言う気がないようなそぶりを見せると、ビアンカは激昂した。めんどくさそうにマテウスは答える。


「……お前がなぜメルフィナとシスティナの身柄を欲しがるのかは知らん。俺としては組合にいてくれて、きちんと仕事をしてくれればいいんだからな」


 マテウスとビアンカはこの一件の協力者であった。マテウスは先ほどアレクに言った通り、たかが8級冒険者ごときが、将来有望な魔法使いの依頼を制限することに我慢がならなかった。まして『白』。普通の人と変わらない色でありながら冒険者をやっていることに腹を立てていたのだ。マテウスにとって『白』は守るべき側の色。嫌なやつを演じてでも、脱退させていったのはそれが理由だった。冒険者になる理由はあったのかもしれない。他の街ではうまくやっていることも知っている。しかし、ここマーカムで『白』に冒険者をさせるつもりはなかった。

 一方でビアンカはただの組合の受付嬢ではなく、とある筋から「よしなに」と強引に押し付けられたという経歴があった。マテウスは本能からか『とある筋』も『なぜ身柄が欲しいのか』ということを知ろうとはしなかった。……どうせろくでもない事であろうからだ。話を聞かされ協力を要求された時、核心までは話を聞くことを拒絶した。だが聞かされた範囲の中である程度までは利害が一致したため、協力した。だがマテウスは組合のルールまで破るつもりはなかった。


「……こちらとしては、メルフィナが残るだけでも御の字だ。場合によってはアイツも脱退していた可能性があった。最大級の戦果は2人とも残ってくれて、アレックスだけが出ていくのが最高だったがな」

「私が困るのよ!」

「お前が困っているかどうかなど俺は知らん。俺はできうる範囲で協力はしたぞ。アレックスの排除も、2人の引きとめも。俺は組合長なんだ。冒険者の味方なんだよ。お前がどこの誰から送り込まれてきたのかは知らんが、後はお前が勝手にやれ」


 そう言うと、マテウスはさっさと会議室を出ていく。会議室に一人残されたビアンカは、癇癪を起こした。


「もう! なんなのよ。……まずいわね。『ドクター』に言われたのは、2人の身柄の確保。それも新品の状態。今のところ何もないようだけど……」


 ぶつくさつぶやくビアンカの独り言を聞くものは誰もいなかった。それは果たして幸いだったのか、不幸であったのか……






 ロビーに戻ってきた3人は、ランドルフとユリウスの待ち伏せにつかまった。


「やっと終わったかい。……ずいぶんと長かったね」


 さわやかに声を掛けてくるランドルフ。しかし双子の返事は冷たい。アレクに至っては完全に無視である。


「アンタに何の関係があんのよ」

「引っ込め、口臭お化け」


 つれない返事どころか、どうにもできない部分を罵倒され、こめかみがピクるランドルフ。自覚はあるようだ。特に返事を待たず、アレクとシスティナは受付へ行こうとし、メルフィナは一般依頼の受付に向かった。だがそれをランドルフが良しとするはずがない。


「待て! メル!」

「……お前たちにそう呼ばれるのは不愉快だわ。呼んでいいのはアレクだけよ」

「……メルフィナ、ちょっと待て」

「なによ」


 ばらけてしまったのでとりあえずメルフィナだけを呼んだランドルフ。今まで散々『メル』と呼んできたのに、ここへ来ていきなりの拒絶。ランドルフにやっていることの自覚があるとはいえ、気が付かないうちにいつの間にか情が少し移り始めていたのか、ちょっとショックを受けていた。


「……なんなのよ。用件は手短に」

「……そんなこと言っていいのかい?」


 いつものお決まりのセリフを吐くランドルフ。だが、今日のメルフィナは一味違った。


「……さっき組合長に言われたわ。リベンジデルタは解散。あたしはパンディックに加入。……何か文句ある?」


 思いのほかスピーディに事が進んでおり、いささか不審がるランドルフ。だが、自分たちが望む形になりつつあることに、その違和感は吹き飛ばされた。


「そうか! それはよかった!」

「そりゃあ、アンタ達にとってはね。だけどあたし等にとっては最悪だわ」


 言葉にいちいちとげがあるメルフィナ。嫌悪感を隠すことなく、堂々とさらしている。しかし、先ほどの発言に違和感を感じたユリウスは、確認のためメルフィナに確認することにした。


「……システィナは?」

「……シーは冒険者をやめることになったわ」

「……なんだと?」


 寝耳に水だったのか、ユリウスはもう一度メルフィナに尋ねる。だがもう一度聞いても答えは同じだった。


「もうこれは決定よ」


 ニヤリとあまりしない表情で2人を見下すメルフィナ。そこでランドルフたちにとっての爆弾発言を落とす。


「あそこで組合脱退の手続きしてるもの」


 2人してぐるりと首をそちらへ向けると、仲良さそうに笑いあう2人の姿が。ついでにそちらからこちらへ向かってくる2人。そこへメルフィナは声を掛けた。


「終わった?」

「滞りなくな」

「あっけないもんだよね」


 メルフィナの問いかけに、アレクとシスティナは朗らかに答えた。2人とも何もかもを降ろしてすっきりした顔をしている。


「……どういうことかなぁ」


 プルプルしながら、聞いてくるランドルフ。アレクに意味は分からないが、双子には何を指しているのかがわかった。なので、システィナはアレクにお願いすることにした。


「アレくん。ちょっと先に外出ててくんない? すぐに行くから。積もる話があってね」

「……わかった。じゃあ、外で待ってるから。ゆっくり話してこい」


 そう言うと、アレクは何の未練もないように、組合の外へと出ていった。彼がここへ戻ってくることはよほどのことがない限りもうないだろう。


「さて。……これを見てくれる?」


 アレクを全員で見送った後、システィナが取りだしたのは一枚の契約書。しかも依頼用のものだ。


 依頼用の契約書には特殊な紙とインクが使われ、万が一履行できない場合、そこに書かれたペナルティが契約を破った方に課せられるという、不思議な紙とインクだ。そこに書かれていたのは……

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