第15話 新しい契約

 システィナが持ち出した1枚の紙。そこには……


 ―――パンディックの要請に対し、リベンジデルタのメルフィナとシスティナは常に従うものとする。


 ―――上記の旨を守る限り、リベンジデルタのアレックスの命は保証される。


 ―――この契約は、リベンジデルタのメルフィナとシスティナのかたきが討たれるまで有効とする。


 ―――この契約を破棄する場合、パンディック並びにリベンジデルタ、両者合意の上の決闘にて決めるものとする。


 ―――この契約が達成された時、リベンジデルタのメルフィナとシスティナの身柄は、パンディック並びにそれに準ずる者の物とする。


 という内容のものが、パンディック全員、並びにメルフィナとシスティナの連名にてサインされていた。要はこういうことだ。


 ―――かたき討ち手伝ってやるから、終わったら俺らのもんになれ。その間はアレックスに手を出さないでおいてやる。


 そして最後に書かれた契約不履行の際のペナルティには、金貨1000枚支払うというもの。払えなければ、その時点で身柄を相手に預けるとなっていた。実質、履行できなければ相手のものになるというのと同義だ。しかも二重に。この契約書は一般的なものであり、ペナルティは主に罰金となる。契約書の契約は組合を通し、しかるべき機関で確実に履行される。踏み倒すことなどできないものだ。


 メルフィナとシスティナはこのかなり不公平な契約をパンディックと結ばされていた。アレクと距離を置くようになってしまったのも、この契約があったからだ。今ではおかしいと思う契約ではあるが、結ばされた当時の状況ではサインせざるを得なかったという事情があった。

 しかし、アレクが解散を言いだし、それが受理されたことにより、リベンジデルタ自体が消滅してしまい、どこのメルフィナとシスティナだかわからなくなってしまった。この不思議な契約書がどのような効力を発揮するかが分からない以上、いきなり不履行を突きつけられる可能性がある。2人はどうしてもそれを阻止したかった。


「契約をやり直して欲しい」

「うーん……どうしようかな……」

「このまま不履行にして身柄を手に入れてもいいのではないか?」


 ランドルフもユリウスも気付いているのだろう。双子にとっての危惧は、パンディックにとっては光明である。さっさと仕事を達成したいというのもあった。だがシスティナは食らいつく。


「もし無理矢理不履行に持っていこうって言うなら……アタシらこれから連れ込み宿に行くから」

「なっ」


 決意を秘めた瞳をランドルフたちに向けるシスティナ。一方であせるランドルフたち。景観を損なう建物ではあるが、無ければ無いで健全な宿が生臭くなってしまう。冒険者たちは案外マナーを守っていた。勿論守らない者もいるが、そう言う輩はだいたい宿を追い出されていた。なお高級な宿では防音が完備され、ベッドメイキングも完璧。高いだけあってアフターフォローの行き届いたサービスが為されていた。


「アンタらはアタシ等が手垢のついてない状態でほしいんでしょ? 2人でアレクに迫れば……」

「まて! わかった! 応じる! 応じるから!」

「……まさか逆手に取られるとはな」


 ドヤ顔で言い放つシスティナに対し、苦々しい顔でぼやくランドルフとユリウス。お互い合意ができたと認識したのか、突然契約書は燃えだしやがて塵になった。屋内で燃えたにもかかわらず、匂いも煙も出ない。普通に考えればハイスペックすぎるのだが、もともとそういうものだと思われているので不思議に思う者は誰もいない。


「いつまでもやられっぱなしじゃないのよ。アンタらのゲスな取引を達成しようと思ったら、あたし等に傷が付いたらダメなのは、初めて話を持ちかけてきたときにわかってるのよ」

「これが、新しい契約書ね」


 メルフィナの勢いの付いたセリフをあっさりスルーし、システィナが差し出したのは新しい契約書。メルフィナの顔も苦々しい。文言は次のようになる。


 ―――元リベンジデルタのメルフィナは、パンディックに加入するものとする。


 ―――上記の者の加入期間は上記の者のかたき討ちが達成されるまで。


 ―――上記の旨を守る限り、、元リベンジデルタのアレックス、並びにシスティナは命を保証される。


 ―――この契約を破棄する場合、パンディック並びに元リベンジデルタ、両者合意の上の決闘にて決めるものとする。


 ―――この契約が達成された時、元リベンジデルタのメルフィナとシスティナの身柄は、パンディック並びにそれに準ずる者の物とする。


 すでにメルフィナとシスティナのサインはされている。本当なら双子は最後の文言は外したかった。だが、それをさすがに許すとは思えなかったので、将来に希望をつなぐことにした。このままではどのみち3人とも破滅が待っているだろうから。


 ランドルフたちは契約書を読み込んでいる。待つ時間が長い。双子の背中に動いてもいないのに汗が流れる。ややあって、ランドルフは受付カウンターへ。何をするのかと思えば、サインをした。


「……ほら、これでいいのかい? ただパーティ名に元が付いているだけじゃないか。こんなのわざわざ書き直す必要あるのか……?」


 そう言って見せつけてきた契約書にはランドルフ以下パンディック全ての名前が書かれていた。おそらく代理で書いたのだろう。どういう認識の仕方をしているのかはわからないが、全然関係ない人間が代筆しても効果は表れない。

 受け取ったシスティナは、サインが確かに書かれていることを確認した。


「……これでいい。あやふやなままで不履行になるのだけは避けたかった」

「……そんなに僕たちとくるのが嫌かい?」

「……むしろ喜んでついていく方の気がしれないわね」


 システィナは契約書をメルフィナに手渡し、彼女はそのまま契約書を一瞥。そして組合に預かってもらうため、カウンターへと足を運んだ。


「よし。これで契約が不履行になれば、やらかしたほうは。後は……」

「ちょっと待てぇ!」


 いきなりランドルフが叫んだ。実は組合中が注目していたのだが、これでさらに注目を集めることになる。


「どういうことだ! ペナルティは罰金じゃないのか!?」

「ちゃんと最後に書いてあったでしょうが。もしも契約を破れば、って」

「なんだと! おい! メルフィ……ナ……」


 ランドルフの声は尻すぼみになっていく。すでにメルフィナは手続きを終え、こちらへと向かってきていたからだ。


「……契約書は?」

「組合に預けた。期間が満期になるまでか、決闘で破棄するか、規約を破るか。それまでは何人たりとも持ち出すことはできない」

「さっきは持ち出してきたじゃないか!」

「それはアタシ等のパーティがなくなっちゃったからよ。成り立たなくなった契約なら、話は別でしょ」

「ぬぐっ」


 ランドルフは言葉に詰まった。彼はほとんど文言が同じだったため、最後の不履行の際のペナルティを見逃した。全然違うものならキチンと目を通しただろう。だが、ほとんどの部分が同じであったため、勝手に思い込んでしまったのだ。


「ラルフ……迂闊な……」

「……面目ない。だが君たちもデスペナルティを背負うことになったんだぞ」


 休みの日にとんでもないことになってしまったパンディック。上から見下ろしていた相手にまんまといっぱい食わされ、同じ土俵に立たされてしまった。


「今更よ。アンタ達が達成すれば、アンタ達にどこかに連れてかれて、ひどい目にあわされんでしょ? 処女の身柄が欲しいなんて頭のおかしいこと言われて、無事で済むなんておめでたいこと思ってないわよ」


 しかもパーティ全員の死である。ここにはいないアレクの分も含まれていた。何も知らない彼は、外で鼻をほじっている。


「きっとアレクもわかってくれる」


 システィナは断言するが、それはわからない。……が、もう彼も後には引けない。……知らないうちに。


「別に今迄通りやればいいじゃない。あたしもちゃんとパンディックの活動はしていくわよ。守らなかったら全員死んじゃうんだし」


 まさに崖っぷち。度胸が良すぎた。


「……ユリウス。一度宿に戻ろう。今後の対策を練る」

「あたしは?」

「キミは来なくていい! 僕たちが連絡するまで待機だ!」


 そう言うとずかずかと組合を出ていった。スタイリッシュさを身上とする彼らにしては珍しい。余程頭に来ていたのだろう。


「「はっ! ざまぁ!」」


 双子は下品に中指を立てていた。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 うまくやれましたかね。批判どしどしお待ちしておりますよ。今度はきっちり受け止めますので。ただバカとかなってたら削除しますけど。

 ……できればここがおかしいんじゃないかとか、優しく指摘してください。

 もうそろそろコメディが書きたい……

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