第16話 ハンターギルドサブマスター、ノアさん
「ふわぁぁ……」
メルとシーに組合を追い出されて、ずいぶん経つ。壁にもたれてぼんやりするのも、そろそろ退屈してきたので、あたりを見渡し何か面白い物でも……
「……」
「……」
眼帯、オールバック、メガネ、ベストにスラックスの初老の男性がこちらをギラリと睨みつけていた。……なんだろう? 後ろを振り向いたところで組合の壁しかない。視線を元に戻すと、やはりこちらを向いている。ためしに俺の顔を指さした。「俺?」って具合に。そのしぐさに何と男性はうなずいた。……マジか。
腹を決めて、男性の元へ。徐々に近づき妙な緊張感が俺を襲うが、男性は微動だにせず、俺をひたすら睨みつけていた。そしてついに邂逅。
「……こんにちは」
「……こんにちは」
「「……」」
て、アンタが俺に用があるんじゃねーのかよ!
「俺はハンターギルドのサブマスター、ノアという」
突如自己紹介を始めたノアさん。……なんだハンターギルドのサブマスターかよ。初めて見たぜ……なんでこんなとこいんだ?
「お前をスカウトしたい」
「え?」
「お前は冒険者だろう? しかも白の。俺たちハンターギルドは白を持ち、なおかつ魔物と戦う意思を持つ者を探している。お前はそれに見事応えた」
……知りませんけど、そんな話。
「我々ハンターギルドはぁ!……」
「ちょちょちょ。ちょい!」
「む? 何だ? 今いいとこなのに」
興がのってきたのか、ますます芝居じみたセリフ回しになっていくノアさん。声も大きくなっていき、何やら注目を集め始める。
「とりあえず落ち着きましょ? ね?」
「……落ち着いた。……我々はぁ!」
「全然落ち着いてねえよ!」
何だこのめんどくさい人は。
「……なるほど。すでにギルド員であったか」
「……すみませんね。もうクラスEなんですよ」
「1クラス昇格しているではないか」
「もらった時からすでにEなもんで、ありがたみもないったら……」
ちょっと雰囲気からがっかり感が出ていた。そりゃそうだよな。新人勧誘で声かけたのに「あ、俺もう入ってるんで」って言われんだから。だが、何かに気付いたかのように、ノアさんはメガネ越しに俺の顔をしげしげとみつめた。
「あの……なんすか?」
「もしやお前は、ミラベルが言っていたアレックスとか言う輩か?」
「え? そうですけど……」
「……」
メガネをクイクイやりながら突如黙り込むノアさん。ただどうにも目が真剣すぎる。そんな時組合から誰かが勢いよく出てきた。
「くそがぁっ!」
「……お前がちゃんと読まないのが悪いのではないのか?」
「そんなことはわかっているっ!」
「だったら周りに当たり散らすのはよせ」
「……くそっ」
こちらを見向きもせず、どこかへ行ってしまったのはメルとシーと一緒にいたはずのランドルフとユリウスだった。……積もる話は終わったのだろうか?
「……知り合いか?」
「まぁ……知ってるっちゃあ知ってますけど……」
えらい剣幕だったな。なんだ? 積もる話で何かあったのか?
「……そこまで知ってる人じゃないですね」
「アレはパンディックのランドルフとユリウスだろう? かなりの有名人だぞ」
「俺もそう思ってたんですがねぇ……」
ウチのメンバーにちょっかいかけて来てたのが腹立つ、みたいなことを言うと目を丸くしていた。
「……お前も大変だったんだなぁ」
「まぁ、そうっすね」
その後組合で突如豹変したメルとシーにも驚いたわけだが……
「にしてもアイツら遅いなぁ……」
「ツレか?」
「今言ってたメンバーっす。……あぁ、元ですけど」
「元?」
これから身内になりそうなので、組合で起きたあれこれを話した。後でばれるよりいいと思う。
「ふむ……じゃあ、これからお前はハンターとしてやってくのか?」
「一応そのつもりっす。魔術とか戦い方教えてもらえるし……」
なにより、ぶっ潰したい相手もいることだし。……エルゼ……生きてっかなぁ……盗賊のとこにはいないと思うんだが……
いつも花の匂いをさせていたさらわれていった義妹のエルゼ。いまだに思い出せる匂いだ。記憶に残る笑顔がまぶしい。
「そうか。なら今後ともよろしく」
「うっす。よろしくお願いします」
挨拶くらいはちゃんとしないといけない。親父からそう教わった。
さらに待つこと数分。今度はメルとシーが出てきた。心なしか顔がすっきりしている気がする。
「おまたせ」
「おまた~」
「おぅ……お前らなんかしたんか? ランドルフたちがえらい剣幕で出てったぞ」
「「はっ、ざまぁ」」
「はぁ?」
中指を立てている双子が本気でわからなくなった。ただ、仲違いしたんだろうなってことくらいは俺にもわかる。というか女の子がそんな下品な仕草やめなさい。
「アレク、こちらの方は?」
「あぁ……ハンターギルドのサブマスター、ノアさんだ」
「ハンターギルド?」
「うむ。ノアだ」
シンプル! 最短の自己紹介じゃねぇ?
「メルフィナといいます。よろしくお願いします」
「システィナで~す。よろしこ!」
メルはともかくシーの自己紹介はなんだよ…… シーはまじめな態度とれる時間少ないんだよなぁ……
「……それはそうとアレくん」
と思ったら急にまじめモードに入ったな……なんだ?
「話しておきたいことがあったりなかったり」
「そうね。アンタも巻き込んじゃったし、話しておくのがスジね」
「……お前ら何やらかした」
「「……いろいろ」」
たぶんさっきのランドルフたちの様子とつながってんだろうな……
「あんまり話聞かれたくない感じか?」
「そうね。できれば静かで誰もいないところのほうがいいわね」
「……いったんカナリア亭に戻るか。今日は休息日でもないし、今の時間だったら宿に誰もいねーだろ」
「そうしよう、アレくん」
3人意見が一致したところで、ノアさんに挨拶していくことにした。
「じゃあノアさん。これからよろしくお願いしますね」
「あぁ。頑張ってクラスあげていってくれ」
「うっす」
手を上げてくれるノアさんに手を振り返し、俺たちは組合を後にした。
もう来ることもないんだろうが……全然さびしくないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます