第13話 一芝居
2018・10・27 下段削除
―――ご意見ありがとうございました。
シーまで辞めると言いだし、場が困惑する。あれ? メルはあんまり驚いてないな……もしかして既定路線か?
「……なんでだよ? 俺はともかくお前は辞められんだろ。冒険者で居たい理由もあるじゃねーか」
マテウスが欲しいのは、『火』と『水』の魔法使いのメルとシーだ。さっきパンディックと組ませたいと言ってたしな。そもそもメルとシーは組合の魔物の情報も目的にしていたはずだ。後、戦いの経験を積むことも。
「問題ない。冒険者を辞めることを考え直せということはできても、辞めさせないという強制はできないということになっている。それに……」
「……ちっ。知っていたか」
シーが何か言いかけていたが、マテウスが被せてきやがった……しかも、この野郎。知ってて黙ってやがったか。ん? ……じゃあメルも一緒に辞めればいいんじゃないのか? あんだけ口が臭いとか言ってたんだし……
「メルフィナは?」
「……あたしは残るわ」
言葉少なに、辞めることを否定した。
「……別々にやってくってのか? なんで?」
「あたしはアレくんと一緒にやっていきたいからかな」
「え?」
俺は大いに戸惑った。……結構冷たくされてた気がすんぞ。それがいきなり一緒にやっていきたい?
「……なぁ。2人ともなんかあったのか?」
「……何もないわよ。ねぇ? シー」
「そうだね。お姉ちゃん」
「……」
めっちゃ白々しい……『何かありました』って言ってたようなも……ん? メルが片眼をぱちぱちやっている。……あれは何かの合図か? ちょっとうつむきがちになってやっているので、ポジション的に俺にしか見えないようだ。たぶん合わせろってことだよな……
「……そうか。じゃあしょうがないな」
「待て! アレックス! 説得しろ!」
「……何をですか?」
「システィナの組合脱退をだ!」
「……なんで自分のことを追い出そうとしてる人の言うことを聞かなきゃならない」
もう敬語なんかなしだ。めんどくせえ。……というか焦りすぎじゃね?
「……だったらお前も残っていい。だからシスティナを……」
「慎んでお断りする」
「なぜだ!?」
「本気で言ってんのか? アンタ……」
散々な目に合わせておいて、残っていいとか思えるわけないだろが。もう心はすでにギルド員。資格的にもギルド員。
「代わりにあたしがパンディックに入るわ。もともとそのつもりだったんでしょ?」
「ん、むぅ……」
「あたしが残るんだからいいじゃない。魔法使い1人じゃ何もできないし、パンディックと組めばそれも心配なくなる。シーが残ったら、2人でやるからパンディックには入らないわよ。それでもいい? あたしら位のランクになったら、浅いとこなら問題ないし。ランクの高い依頼もできるけどやらないわよ。命が惜しいし。解散は受け入れるって言ってるようなもんなんだから、こっちの要求も飲みなさいよ」
「ぬ……ぐぅ……」
……おっさんはさっきから唸りっぱなしだ。頭で計算してるんだろうが……できてんのか? 計算。メルのたたみかけに徐々に顔が赤くなってきているマテウス。
「……いいだろう。システィナの組合脱退を認める」
「組合長! よろしいんですか!?」
ビアンカがいきなり叫んだ。……そういえばいたな、コイツ。えらく焦っている様子が見える。というか……口調が……
「……仕方がなかろう。組合規則では強制的に組合に属させることはできん。冒険者は自由がモットーだ」
「そういうこと~♪」
ご機嫌にビアンカを見下すシー。うわ……めっちゃ睨んどる。そんなビアンカは大きなため息をつき、俺たちに言い放つ。
「……ちょっとこれから組合長と話があるから~、脱退手続きはカウンターで他の子にしてもらってくれる~?」
「……行こうか、2人とも。お世話になりました。組合長、ビアンカさん」
「……とっとと出てけ。お前なんぞもういらん」
「さいですか」
一応礼を尽くしてみたが、あちらにその気はないようだった。ビアンカなんかガン無視だし。
もういいや。
会議室から出てきた3人は組合のロビーへと向かうが、システィナが突然立ち止まった。アレクはどうしたと聞くと、
「ちょっとお花摘みに行って来る。行こう、お姉ちゃん」
「ちょ、アンタねぇ!」
システィナに連れられてメルフィナは、化粧室へと連行されていった。
「……ごゆっくり」
後姿を見届け一言つぶやくと、アレクは再びロビーへと向かった。
バタンと化粧室へと入ったメルフィナとシスティナは、化粧室の中に誰もいないことを確認すると、2人で個室に入った。
「……で? 乙女に恥をかかせてまでここに連れて来た理由は?」
「……これからのことよ」
メルフィナの嫌味もスルーし、いきなり本題へと切り込むシスティナ。
「……流れ的に変じゃなかったかしらね」
「……どうだろ。お芝居なんかしたことないからわからないけど、ばれてないこと祈るしかないね。アレくんに付くのは搦め手にお姉ちゃんよりは強い、アタシが付くべきだと思うけどね」
「……そこはそうだと思うんだけど、あたしこれからアイツらと一緒にやってくことになっちゃったんだよね」
もう名前を呼ぶことも嫌だとばかりに顔も口もゆがめまくるメルフィナ。とても人に見せられない顔である。
「まぁまぁ。後は、パンディックに契約を持ちかけて、アタシが自由に動ける形にしていかなきゃならないんだけど……」
「……穴がありそうで怖いわね」
「こういうのはどれだけ準備しても抜けが出ちゃうからね。一応、こんな感じで……」
2人の相談は結構長く続いた。その後ロビーで待っていたアレクに「う○こか?」とデリカシーのないことを聞かれ、グーパン制裁が行われるのだった。
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