第12話 観察指定

「人聞きが悪いな」


 何だよ、観察指定パーティって。字面がひどすぎんだろ。案外知られた言葉かもしれなかったので、メルとシーに聞いてみた。


「聞いたことあるか? 2人とも。俺聞いたことないんだよ。『観察指定』とか」

「あたしもないわよ」

「同じく~。そんなこと言われる覚えがないかな」


 ……てことは一般的ではないということか。そんな一般的ではない言葉で括られていた俺たちは、3人揃って組合長マテウスの顔を見る。


「……観察指定ってのは、やらかしそうな連中を指す言葉だ」

「……別になんもやってないっすけど」


 むしろやらせてもらえないというほうがしっくりとくる。やらかしてんのはむしろお前らの方だろうが。


「おおありだ。5級の冒険者を8級のリーダーが行動を縛ってるんだからな」

「何言ってんすか。俺に仕事をさせないのはアンタらの方でしょ」

「色なしがそれこそ何を言っている。魔力による補助を受けられないやつが、他の冒険者と同じように扱えるはずがなかろうが」

「ただ魔法が使えないだけでしょうが。身体強化なら俺にだってできる。別に他の冒険者だって、特別凄い魔法が使えるわけでもなし。ちょこちょこっとありきたりな魔法が1つ2つ使えるだけだ。だいたい魔法使いなんて名乗れるのはそれこそ冒険者の中の一割もない。それこそメルフィナやシスティナみたいなのが特別なんでしょうがよ」

「だからだ。そんな一割にも満たない”特別”が、何のとりえもない色なしの下級冒険者のリーダーに、行動を制限されている。組織としては、歪だと判断せざるを得ないだろうが。ちがうか?」

「……」

「そこで黙るということは、ちゃんと理解しているということだな」


 くっそぉ……うっとおしいおっさんだが、言っていることにさほど間違いはない。組織の長として、適材適所に冒険者を配置するのは至極当たり前のことだ。まして、冒険者というのは、特殊な条件は付くが予備兵役も兼ねている。万が一、国が戦時下となった場合、お金で兵士として雇われることがあるのだ。いわゆる傭兵契約である。強い者にはそれなりの報酬と共に、戦場で結果を求められることになる。組合長にはいざというときに備え、強者の育成というのが求められる。勿論拒否権はあるが、実際国が侵略の危機に瀕しているのに、戦える者が拒否をするというのは実質、ない。……俺がその邪魔をしていることに間違いはない。


「つまりだ。組合長としては、今の臨時の形が最も望む編成になっている。ウチの組合最強であるパンディック。それに今現在も、将来も有望なメルフィナにシスティナ。その2つが偶然とはいえ、たびたび組んで依頼や討伐をこなしてくれる。そこにお前の居場所などない。そんなこと誰に聞いても自明の話だ」

「ッ……」


 悔しいが、正論だ。組合長としては、最大戦力を遊ばせておく理由などない。


「……お前ら、ちょっと奥まで来い」

「……なんでさ」


 シーの機嫌が何やら悪い。解散を言いだしたからなのか、俺がボロクソ言われていたからなのか。後者だったらちょっとうれしい。


「ナイーブな話になるからだよ。こんな、聞き耳立てられた状態で話を続けたいのか?」


 ……案外、気を配れる男のようだ。辺りを見渡すと、誰も口を開いていない。完全にこちらの様子を窺っている。ランドルフやユリウス、追加でテレンスも。


「……行きましょうか」

「しょうがないわね」

「フン……」


 三者三様の言葉を発し、組合の奥へと行くことになった。






「……というわけでだ。組合としては解散を勧告したい」


 奥の会議室に入って即、そう切り出したマテウス。……やっぱり話聞いてなかったのか? タイミングとしては完全に出るのを待っていたと思うんだが……


「いや……だから俺は解散をしたいと……」

「ぜっっったいダメ!!」

「そうね、認められないわ」


 ……なんでだよ。俺がいなくなれば、もっと上のステージでやれるのに……そんなに解散が嫌なのかよ……ちょっと不思議に思うくらいだ。


「なぁ」

「何?」

「お前らなんで解散したくないんだ? お前らが冒険者になった目的って、村を滅ぼした魔物を討伐するためだろ? 俺といたらいつまでたってもソイツに辿りつけないぞ」

「……いろいろあんのよ」

「……まったく。アンタが一緒じゃなきゃ意味ないでしょ」


 何なんだよ、お前ら。口悪いくせに俺を感動させてどうする気だ。と、そこへビアンカが口を挟んできた。……いたのか、アンタ。


「もういいじゃないですか~。組合長、権限あるんでしょ? 問題あるパーティを解散させる権限」

「……合意の上で解散してもらうほうが一番後腐れがなかったんだがな。もうそろそろ終わりにするか」

「……どういうことですか?」

「簡単な話だ。観察指定を下されたパーティに対し、解散を要求することが出来るんだよ。……言われた方から見れば、強要か。アレックス、俺にも立場がある。お前にも冒険者をやめてもらいたい」

「……おっと」


 マテウスは申し訳なさそうな顔をしている。なんでも観察指定とは、要注意人物を仲間に加えている冒険者を、解放させるための決まりごとのようだ。何かしら脅迫を受けていたり、明らかにおかしい動きをしているパーティを強制的に解散させ、面倒事を事前に防ぐシステムだとか。……冒険者になる時はさすがに解散することなんて考えないだろうから、意外に知られていない規則らしい。

 急に俺に言われた引退勧告だが、それは組合を引っ掻き回した責任を取らせるためだということだ。……ちょっとムリがありすぎるんじゃないかな? だけど……冒険者以外にも道がある俺には、どうでもいい話であった。もともとハンターライセンスありきで動いていたからな。別に冒険者にこだわる必要なんかない。強くなるための鍛錬が積めて、あの盗賊どもを壊滅できて、力が手にできるなら。


「だから、リベンジデルタは解散だ。異論は認めない」

「……だから、俺は初めから解散したいって言ってんじゃないですか」

「えっ?」


 えっ? じゃねえよ。俺は初めから、解散するって言ってんだろ! お前ら人の話聞かなさすぎだぞ!


「今日ここに来たのは、パーティを解散するためっす。わざわざ組合長が出て来なくても、メルフィナとシスティナが合意すればそれでおしまいってだけの話だったんですけど……」


 ゴネてんの、2人だけだからな。そもそも、ランドルフたちが乱入したりとか、組合長が横からしゃしゃり出てくるからこんなややこしいことになるんだ。


「じゃあ、解散を受け入れてもらえるってことですよね?」

「……たった今、リベンジデルタは解散とする!」


 ついに、組合長から止めの一言が放たれた。


「お前も出ていけ、アレックス。ウチに色なしは必要ない」


 ……なんで白の魔力持ちが冒険者でいられないのかはわからないが、俺にはキープしていることがあるので案外焦っていなかった。


「じゃあ、アタシも冒険者辞める」


 爆弾を炸裂させたのは、組合が望んだ1/2。シーだった。

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