第20話 身体強化の秘密
「別にかまわねえぞ。なぁドロシー?」
「そうね。私も問題ないと思うわ」
「……だってギルドには白しかいないって」
3人でハンターギルドにやってきて、さっそくミラベルさんに昨日起こったことを話した。そしてギルドにお世話になりますと宣言し、好意的に受け入れられた。そのうえでシーの現状について話したのだ。勿論契約うんぬんに付いては話していない。
シーとはすでに話も付いており、「守るためには同じところに居たほうがいい」という男前なお返事もいただいている。特にやりたいこともないためそれでいいとのこと。
そして先ほどの発言につながるのである。
「まぁ……ウチには白持ちにしか使えない魔術とか、一味違う身体強化、主にこの2つがギルドにしかない特色と言っていい。それはお前にもわかるだろ? アレク」
「まぁ……そうっすね」
「実際にやってみればわかるわよ。今鍛錬場空いてるわよね? ミラ」
「あぁ、そうだな。システィナって言ったか? お前、ここでやってく気あるか?」
「……はい。アレくんと一緒にお世話になりたいと思います」
「ほぅ……」
「へぇ……」
ミラベルさんとドロシーさんがこちらをニヤニヤしながら見てきた。
「……なんすか?」
「い~や、べっつに~」
「隅に置けないわね。アレクは」
ミラベルさんとドロシーさんは、人差し指と中指の間から親指をつきだし、下品なサインを突き出してきた。ミラベルさんはともかくドロシーさんもかよ。
「おちょくるのはこんぐらいにしてやるよ。ほら、行くぞ」
鍛錬場まで案内してくれるようだ。相変わらずのフットワークの軽さである。ドロシーさんも行くみたいだ。
「ねぇ、アレク」
「なんだ? メル」
「……あたしは?」
「……」
それはなんだ、あれか? あたしは隅に置かれてるのかということか?
「……あたしも良い仲なんですって言ってみるか?」
「……やめとくわ」
そんなめっちゃ悔しそうな顔すんなよ。頭をポンポンとしてやると、ちょっと機嫌がよくなった。乱れたので魔法で整えてやったが……
「いたたたた!」
反対側にいたシーが脇腹をつねってきた。シーのほうを見るとぷいと向こうを向いた。……あちらを立てればこちらが立たず、とはよく言ったもんだ。結局シーにも頭ポンポンからの魔法のセットのコースを行うことになった。
……なんと幸せな時間なんだ。
「早く来い! アレク!」
早くも幸せな時間は終わりを告げた。
「よっし。さっそくやるぞ」
鍛錬場に全員上がり、ミラベルさんが宣言した。天井を指さして。……なんだあのポーズは。
「アレク。ギルドの身体強化、説明してみてくれる?」
ドロシーさんから言われたので、特に何も考えずに説明を始めた。
「冒険者組合で教えてもらってるのと違って、魔力を本当に体の隅々まで満たすんだ。皮膚、筋肉、骨、内臓、神経まで」
そう言って俺は魔力を通した。ちょっとばかし体が白、というか向こうが見えるくらいのなんていうか……透明じゃないけど水の中で相手を見ているような、そんな感じの色に包まれる。……なんかはっきりと『白』って言えない色なんだよな。白の中にもいろいろあるみたいだし、こんなもんだろって感じだ。
「な、に?」
「アレくん……なんか存在感というか圧力? というか……凄いんだけど」
「……? 何言ってんだ。これぐらい誰でもできんだろ?」
他の冒険者の本気なんざ見たことないが、これぐらいギルドでは普通だ。
「さて、相手はあたしが務めよう。アレク、お前も剣取れ」
「うっす」
そう言って、端に立てかけてあった刃をつぶした片手剣を2本持ってきた。俺は本来コンバットナイフ2本を持つ速度重視派なのだが、今回は見せるためなので片手剣を使うことに。
お互い、鍛錬場にある直径20mぐらいの舞台の中心に立った。
「いつでも来い」
「胸、お借りします!」
挨拶を交わし、ミラベルさんに向かって行った。
「なに? これ……」
「ウソでしょ……」
双子は目の前の出来事が信じられなかった。縦横無尽に舞台を使い切り結ぶアレクとミラベル。彼女たちも身体強化を使って目の前を見るが、時々動きがかすれて見えるのだ。ギルドマスターミラベルならともかく、何としてでも守りたかったアレクが。
「ね、ねぇお姉ちゃん……アレくんって……」
「あんなスピードで動けるの?」
アレクとミラベルがぶつかるたびに、衝撃が周りに広がり、びりびりと3人を刺激する。3人目はもちろんドロシーだ。だがドロシーは見慣れているので、メルフィナ達とは違い動揺はない。
「どう? アレクの強さ、肌で感じてる?」
「……ギルドの身体強化ってここまで違うんですか?」
メルフィナがドロシーに確認する。予想された質問だったので、ドロシーもすぐに答えた。
「アレクはずいぶん強くなったわね。あなたたちにずっと追いつきたいって言ってたから。愛のなせる力かしらね」
ふふっと笑うドロシーに、双子は開いた口がふさがらない。
「「……」」
双子の認識が一瞬で変わった瞬間だった。どう見ても8級の動きではない。冒険者たちがこれほど縦横無尽に動くところなど見たことがない。だが、パンディックと比べてみてもそれほど遜色はない気が2人はしていた。
「ギルドの評価はいかにいい素材を持ってくるかだから、ただ強いだけではダメ。システィナちゃんはいかに傷を少なく相手を狩るかをこれから考えなくては駄目よ」
ガィン! ギィン! とやりあっていたアレクとミラベルだが、ミラベルがちょっとフェイントをかませると、あっけなくアレクはスカされ体勢を崩し、アレクの後ろに回り込んだミラベルが、首元に剣を置いた。
「ほい、ここまで」
「あ、りがと、う……ございまし、た!」
アレクはあおむけに倒れ、息を荒げている。それを見てミラベルが一言。
「まだまだだな」
「ハァ……ハァ……うっす」
息も絶え絶え、アレクは返事をする。ミラベルは舞台の外で見ていたメルフィナとシスティナに、声を掛けた。
「2人とも。これがギルドの身体強化だ。一味違うだろ?」
「そうですね……正直アレクがここまでやるとは思ってませんでした」
「アレクは経験がまだまだ足りない。だが体の強化は誰でもできるんだよ、『白』をもってるならな。つまりは君らには使えない」
やや挑発的に双子に言うミラベル。ちょっとムッとした感じで2人はミラベルを見るが、横からドロシーが言って来る。
「ためしにやってみればいいじゃない。さっきアレクが説明してくれたでしょ。それですべてが分かるわ」
ちょっと気分が苛立っているときに聞いたドロシーのセリフが、やや挑発的に感じたメルフィナとシスティナ。上等とばかりにアレクの説明通りに魔力を通してみる。
「皮膚、筋肉、骨、ないぞ……うっ」
さすが双子とばかりにほぼ同時に、吐き気が襲う。頭がくらくらし、立っていられなくなった2人は膝をつき両手をついて這いつくばることになった。
「……まぁ、そういうことだ」
「別にかまわないと言ったのはね、魔力に色が付いていると本当に大事なところにまで魔力を浸透させられないからなのよ。そんな風に体調を崩してしまうの。さすが魔法使いだけあって骨まではいけるみたいだけど、ただの冒険者ならいいとこ筋肉までね。組合では皮膚に通すことしか教えていないから、筋肉まで通すのは等級が上がって自然に覚えるぐらいかしら。天然で使う人もいるみたいだけど」
「まぁ要するに、色つきの魔力ってのは人体に有害なんだよ。節度を守って使えば別に問題はないがな。だからこちらからわざわざ公表することもしないが、別にばれたって何がどうなるわけでもないんだわ。いかにも重大な秘密って感じにしてるのは……まぁ、そのほうがいいかなって本部のグランドマスターがノリで決めただけだな」
くらくらする頭で、2人は思う。
―――ノリかよ、と。
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