第19話 事後

 結局、猿のようにしけこみ続けた俺たち。日はすでに傾き、部屋は何とも言えない匂いが充満していた。


「何と幸せな時間なんだ……」


 少年時代に終わりを告げた俺は、アンニュイにつぶやく。ちょっとぶってみた。両隣にはかぴかぴになっているメルとシーが、疲れているのかすやすや寝ていた。まぁ、俺のせいなんだけど! 溢れる思いがこのようなコーティングを2人にすることになってしまった。


 ぼんやりしながら2人の髪の毛を梳いていると、扉が突然ガンガンノックされた。メルとシーもびくりと目を覚ます。


「あんたたち! いつまでやってんだい! そろそろみんな帰ってくる時間だよ!」


 女将さんが、お湯持ってやってきた。






「「「……」」」

「まったく……気持ちはわからないでもないけどね。いくらなんでもさかりすぎじゃないかい?」


 全く言い訳できねぇ……メルとシーもしょんぼりしながらお湯で体を拭いている。もちろん俺も。当然まっぱだ。俺たちは女将さんに説教くらいながら、お湯でかぴかぴの体を拭いている。


「すいません……」

「アンタはまぁ……男だからね。こんなきれいどころに迫られたら、滾るもんもあるだろうさ。だけどね、メルにシー!」

「「は、はいっ!」」

「アンタ達までおぼれてどうすんだい! 男は上手に転がしてナンボだよ! やりたい放題やらせちゃダメなんだよ! 男はすぐ調子に乗るんだから!」

「あの……具体的には……」


 なぜか怒られたメルとシー。俺にわからない理由で女将さんは怒っているようだ。女将さんの言葉に興味をひかれたのかメルとシーはコソコソ女将さんと話し出した。


「―――から、―――ってことだよ」

「おお~」

「てことは……という具合に……」

「おっ、わ―――てるじゃないか」


 ……何話してんだろ。不穏な気配を垂れ流し、不吉な笑顔でコソコソ話していた。






「とにかく! もうすぐ他のが帰ってくるから、身支度整えて降りといで! もう晩御飯の時間だよ」


 そう言って、女将さんは階下に降りて行った。あぁ……もう日が落ちそう……


「はしゃぎすぎちゃったね」

「しょうがないわ。ようやくだもの」

「……」


 正直2人とも可愛いので、こんなに迫られて悪い気は全くしないのだが、これからアイツらを御せる気がまるでしない。……いつか力尽きる時が来るのだろうか。だけど邪険にして他の男に目が行くようになるのも気に入らない。……頑張ろう。


「……もう晩メシみたいだし、そろそろ食堂行こうぜ」

「そうね」

「ほいほーい」


 機嫌様さそうな返事が聞けて俺もご機嫌である。頑張った甲斐があった。






「あ、アレ、ク……さん。ごちゅう、もん、は……」


 まっかっかの顔で注文を取りに来てくれたクラリスちゃん。……ははぁ、さてはどっかで聞いてたな?

 女将さんの言いつけを聞かない悪い子に、俺はイタズラ心が沸いた。


「なぁ、クラリスちゃん」

「ひぇっ。なん、に? アレク……」


 上目づかいで聞いてくるクラリスちゃん。何、この子。めっちゃかわいい。イタズラ心が沸いたのは俺だけではなかったようで、メルとシーも追随する。


「お~、クラリス~。どした? 顔真っ赤だぞ」

「えっ?」

「……いけない子ね。耳だけ大人になっちゃった?」

「うっ……うわぁ~ん!」

「あっ」


 ……厨房の奥に引っ込んじまった。俺を含め3人ともばつが悪そうな顔をしている。お年頃だしな。興味があるのもわかるんだが……ちょっとやりすぎちまったな。


「ウチのクラリスを泣かしたのはお前らか?」


 ズゴゴゴ……とでも言おうか。どえらい雰囲気を醸し出した筋骨隆々でエプロン付けた短髪親父が、お玉を手でパシパシやりながら、俺たちを見下ろしている気がする。


「……すみません」

「つい出来心で」

「幸せを分け与えたくて」


 カン! カン! カン! とテンポよくお玉で頭を殴られた俺たちは、女将さんの旦那であり厨房を一手に引き受ける親父さんの、愛のお玉を食らうこととなった。「さーせん!」と土下座したのは言うまでもない。あとシーよ、その幸せはたぶんクラリスちゃんとは分けられんよ。

 後々何で出てきたか聞いたら、


「クラリスにはまだはえぇ!」


 と至極当然のことを言われた。まぁ10歳だしな。知ってるにこしたことはないけど、確かに早すぎた。反省。


 結局、旦那さんの仕返しだったのか、やや少なめの晩御飯を食べた後、3人で並んで眠った。






 次の日―――


「……なんだかまだ入ってる気がするわね」

「これが幸せの感触かな?」

「……」


 俺に振るんじゃないそんな話。メルはにこにこ、シーはニヤニヤしながらこちらを向く。そんなこと俺にわかるわけなかろうが。俺は2人を見ていられず、そっぽを向いた。クスクス後ろから笑い声が聞こえる。だまらっしゃ。


 今俺たちが向かっているのは、ハンターギルドである。メルはともかくシーが冒険者じゃなくなってしまったので、何とか頼み込んでシーをギルドに入れてもらえまいかと考えているのだ。だがちょっと今の段階で問題がありそうな気がする。それは……


 ―――シーの魔力が『水』の属性を帯びていることだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る