第18話 一世一代の大勝負

 その後、さっき組合で起こったあれこれを聞いた。この2人、かっけー……


「ちょっとのど乾いたからお水もらってくる」

「あ、アタシも行く」


 そう言って2人は、部屋を出ていった。俺はベッドにそのまま倒れこんだ。ギシリとベッドのスプリングがきしむ音が、静かな部屋に響く。


「……2人に迷惑かけちまったな」


 自分を助けるために、2人は自分の体を身代としてパンディックと水面下でやりあっていた。……俺に気付かれないように。だが俺の心にはすでに火が灯りはじめている。


「あー、もうだめだ」


 ここまでされたらもう押さえられん。自分を守るために今まで戦っていた? 普通逆だろ。いかに自分が脳天気だったか、それを今思い知らされていた。だがそれと同時にうれしくてたまらなかった。


 ―――あの2人が愛おしい。


 出会いはただの偶然だった。境遇が似ていた、ただそれだけで互いに共感し、パーティを組んでもうすぐ丸2年。あの出会いが俺でなかったら、その知らない誰かとこんな風になっていたのかと思うと、それだけで不愉快になった。

 ド外道だと後ろ指を指されても構わん。同時になどふざけた話だ。

『釣り合わない』。そう思い込んで、隠そうとしていた。抑えこもうとしていた。あのまま組合で解散していれば、おそらくは抑えこめただろう。いつか気付いたとしても、それはすでに昔話となっており、きっと後悔していたに違いなかった。


 だけど間に合った。間に合ってしまった。手の届くところに彼女たちは居て、今現在の状況はとても落ち着ける雰囲気でもない。どうやって奴らから身を守るか、それを議論するのが今だ。しかし、俺はすでに話し合いなどできる精神状態ではない。あの2人のみが今、俺を支配している。


「ただいま」

「おかえり~」


 メルのただいまにシーがおかえりと返す。たまにやる2人のやり取りに気持ちがほっこりする。メルの手にはお盆があり、コップが3つ載っている。色が付いているので何か果実をつぶした飲み物をもらってきたのかもしれない。


「はい、アレクの分」

「……」

「? どうしたのよ」

「アレくん、顔赤いよ」


 不思議そうに首をかしげる2人。同時に左右対称に行動した2人を見てクスリと笑ってしまった。……顔めっちゃ熱い。受け取る手がプルプルする。


「なぁ」

「何?」

「?」

「「「……」」」


 3人とも黙り込んでしまった。しかも俺が何かを言いたそうな状態で。2人は俺の言葉を待っている。……手をこまねいているうちに、取り返しがつかない状況が来るかもしれない。ここが正念場……2人の顔を見れないので、コップの表面を見つめながらもう一度声を掛ける。


「なぁ」

「だから何?」

「……」


 シーから返事がないが、どんな顔をしているのか顔が熱すぎて確認することもできない。喉がカラカラに乾く。あ、そのための飲み物だ。グイッと一気に煽り、そのままの勢いで俺は言い放った。


「不誠実ですまんが、俺は2人に惚れている!」

「「!」」

「……かもしれない」

「「ちょっと!!」」


 俺の一世一代の大勝負はいまいち締まらなかった。




 ニヤニヤしながらシーが近寄ってきて膝に座った。しかも対面でだ。ち、近い近い!


「……」

「ほーん。アレくんアタシのこと好きなんだ」


 俺は顔がこれ以上向こうを向かないというくらいに全力で逸らしている。ただ膝にはシーの体温、そして匂い。皮膚と鼻が勝手に全力で仕事をしている。


「……シーだけじゃないでしょ。あたしもよね?」


 首を逸らせた側へ回り込み、メルが詰め寄ってきた。首を反対に回そうとすると、ほっぺたを両手で挟まれ位置を固定された。


「ね?」

「……なんへんほひはせないへふへ」

「何? なんて言ってるの?」

「お姉ちゃん……そんなに挟み込んじゃ、ちゃんと喋れないよ」

「あっ」


 天然か、お前。パッと両手を離すと再び俺に問いかけた。顔を逸らせられる雰囲気ではない。


「あたしもよね?」

「……はい」

「……なんでそんなに声に力がないのよ」

「いや……恥ずかしいのと申し訳ないのと不甲斐ないので……やっぱ2人同時とかおかしいだろ」

「むしろアタシはうれしいかな~」

「えっ?」

「だってアタシ等もう家族いないし。どっちかだけ好きでもう片方はいらないって言われるとやっぱりつらい。2人とも一緒にもらってくれるって言うならみんな一緒に居られるし」

「シー……」

「別に甲斐性があるなら、どっちもいけるでしょ。違う?」

「違わないけど……」


 ちゃんと食わせられるなら、何人付き合ってても問題ない世界だ。男も女も。


「俺に甲斐性ないぞ」

「それまではあたしたちが食べさせてあげるわよ」

「メルさん……男前」

「そこはいい女って言いなさいよ!」


 ガンッ! と一発いいのをもらった。「うがっ」と声が出てぐらりと倒れこむかと思いきや、シーが抱きついてきて倒れるのを阻止してきた。シーは俺の胸に顔を押し付けてきた。やらかいのやらいい匂いやらが俺の脳みそを刺激してくる。破壊力がヤバすぎる。


「ふふ……アレくんの匂い……」

「あっ! ズルいわよ! シー!」


 後ろからメルが抱きついてくる。なんだ? ここは天国なのか? 今朝の覚悟はどうした、俺! 理性を保て! 


「……そもそもお前ら、なんで俺を……?」


 ここまでされるようなことした覚えがないぞ。


「ここに来てすぐに冒険者になって、冒険者通信に期待のルーキーとか載っちゃって……」

「おかしな連中に付きまとわれて、樹海で襲われてたところをアレくんに助けてもらった」


 ……あったなぁ、そんなこと。俺では勝てそうにない冒険者だったから、たまたまそこら辺にいた大蛇をトレインして冒険者にぶつけて、その隙に助けたんだったか。よくよく考えれば俺もヤバかったが、たまたまうまくいったんだよな。


「……俺には全くかなわない相手だったんだがな」

「でも助けてもらったわ。その後ご飯して、境遇が似ていることを知った」


 そうそう。お礼だって言って一緒に飯食ったんだった。その時に俺が故郷から出てきた理由を話したんだったっけ。


「そのあと冒険者たちが、宿にまで押しかけてくるって言ったら、カナリア亭を紹介してくれて」


 カナリア亭はプライベートを尊重してくれるいい宿なのだ。女将のクレアさんが不届きな連中をシャットアウトしてくれたな……


「弱った心にするするって入ってきたのよ、アレクは」

「……人聞き悪くない?」

「それだけまいってたってこと。アタシにもするするはいってきたからね~」


 ちょっと動機が弱くない? と聞くと……


「「あたし等は結構チョロいのよ」」


 とてもいい笑顔でそう言ったのだ。






「さぁ。ヤるわよ」

「そうだね。ヤろう」

「……」


 何かがおかしい気がする。耳に聞こえてくるのは普通の言葉だが、なんらかの意思が込められている気が……

 とか思っているうちに、2人は服を脱ぎだす。さすがにビビった俺は、2人を止めにかかる。


「ちょっと待てぃ! ここは連れ込み宿じゃねえぞ! 壁はわりと薄いんだ!」

「大丈夫よ。クレアさんにはうまくいきそうだから、上がってきちゃダメって頼んであるわ」

「ええ!?」


 すでに根回し済みか!? だが、良いのか!?


「け、契約は? お前らパンディックの言うこと聞かなきゃならんのじゃないのか?」


 俺がそう言うと、シーがカバンから一枚の紙を出してきた。新しい契約書の写しなんだと。


「……どう? パンディックに従うって文言ないでしょ? この契約でアタシ達が守らなきゃならない約束はただ1つ! お姉ちゃんがパンディックにこと。ただそれだけよ! だから、何の問題もなし!」

「……不公平だわ」


 ぼやくメルをよそに、俺は受け取った契約書を穴が開くほど見つめたが、大した量が書いてあるわけでもなく、すぐに読み終わった。……ランドルフのやつこれをどうやったら読み間違うんだ?


「それに……またメルとシーって呼んでくれたよね」

「あ……」

「もう解散なんて言わないでよね。……解散しちゃったけど」


 ……かなわん。もう尻に敷かれてもいいか、なんて思って顔を上げると、


 ―――まっぱのメルとシーがいた。


「……思い切り良すぎない?」

「やっと条件付きだけど自由になれたのよ」

「ここで済んじゃえば、もし何かがあってもアイツらのもくろみ阻止できるでしょ」


 そう言うと、俺に覆いかぶさってきた。






 結論から言うと、とても幸せだった。あと、女子の表はいい匂いがしても、出てくる汁やらなんやらは、男女問わず生臭いものだなと思った。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


甘すぎてゲロ出そう。

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