第21話 寮に入る理由
2018・11・7 改稿
むくりと起き上がると、メルとシーが床に這いつくばっていた。
「……なにしてるんすか?」
「身体強化をしてたのよ。ギルド式の」
「あぁ……そんなふうになるんすか」
色つき魔力の持ち主は、魔力を浸透させることが出来ない。無理にやろうとすれば、体に異常をきたすと言っていたが……
「おーい。平気か? 2人とも」
「……平気じゃない」
「アンタなんなのよ……」
なんなのよって言われてもな……俺は別に何ともないし。舞台を降りて、2人の背中をさすってやる。……いつも思うんだが、この肩甲骨のあたりにある下着の感触がな……手をまたぐべきかまたがざるべきか……結局またがないことを選択した。正直今更な感じもするが……
「はっはっは! ちょっと腕あげたか? アレク」
「……どうでしょう。あまりピンときませんけど」
「保障してやるよ。戦闘力だけで言えばなかなかのもんだ」
「恐縮です」
ホントかよ? 一方的にいなされただけだぞ。だがメルが説明を捕捉する。
「……アンタいったいどうなってんのよ? マルコなんか余裕で何とかできるほどのスピードじゃないの」
「はぁ? お前こそ何言ってんだ? こんなもん序の口だぞ。ただの演武だからな」
「アタシ等の苦労はいったい……」
メルどころかシーまでガックリしてる。そんなにしんどいのか?
「実際問題、ギルド式ってのは魔力によるゴリ押しだ。あたしは魔力量で言えば圧倒的にアレクに劣ってるからな。今いなせたのは単に技術の差だ。アレクは対人、あんまりやったことないだろ?」
「そっすね」
人に刃物を向けるなんてとんでもない。
「この身体能力に技術がのれば、かなりのもんだな。今度王都である武舞会参加してみっか? 強さで飯食ってこうって奴らがゴロゴロ出てくんぞ。お偉いさんもいっぱい見に来るしな。うまくいけばお国に雇ってもらえるぞ」
お国にねぇ……ランドルフたちですらなんとかなりそうな気がしないのに、強さを誇示する連中が集まる武舞会? とか場違いにもほどがあんだろ。
「まぁ、とにかくなんだ。システィナ、お前がギルドに入ることに異論は別にない。逆に色つきの魔法のサンプルがいろいろ集まりそうだしな」
「いい案ね、ミラ。いいサンプルになりそう……」
ぺろりと唇をなめるドロシーさん。……なんだあの色気は。あと瞳の輝きが怪しい。
「……やっぱやめ「確保だ! アレク!」よ」
すまん! シー。ボスには逆らえん。逃げようとしたシーを俺は後ろから羽交い絞めにした。
「あ、アレくん! 離してよ!」
「ダメだ! お前は俺と一緒にやっていくんだ!」
「えっ……」
えっ……てなんだ。あれっ、シーの抵抗が弱まったぞ。腕をだらりとさせたまま、シーは俺にもたれかかってきた。
「もう……しょうがないな、アレくんは。そんなに言うなら一緒にいたげる」
うまくいった……のか? もうシーはじたばたしていない。もたれかかってきている顔を上から見る限り、どうも怒っていないようだが……
「うがっ!」
後ろからケツを蹴り上げられた。振り向くと……メルが涙目で上目遣いになってる。……ちょっとその角度反則じゃね? かわいすぎんだけど。
「あたしは!?」
魔力でも込めてんのかってくらいびりびりする声で叫んだメル。なんか顔が熱く感じるぞ?
「おぉ……色が付いてても『威圧』って使えんのか」
「やっぱり魔法使いは入れるべきね。研究がはかどるわ」
おい、お偉いさんたちよ。ちょっとピンチなんだ。助けてくれませんかね? メルは未だに睨みつけてきており、口が「むー」ってなってる。……ちょっと幼児退行してない? 返事を待っているようなので、俺はメルに素直な気持ちを答えた。
「お前だって一緒にやっていきたいと思ってるよ。だからそんな顔すんな」
一瞬タメがあり、にへらと笑顔を見せてくれた。やっべ……なんだこの可愛い生き物……
「アレく~ん。背中になんか硬い物が当たってるんだけど」
マイサンが「出番? 出番なの?」と増量した血を循環させ、効果を顕現していた。まさに魔法。
「……なんかすまん」
お年頃の女子がいい匂いしすぎだ。
シーの羽交い絞めを解除した後、ミラベルさんからありがたいお言葉を頂いた。
「とりあえず、アレクも本腰を入れることになったし、システィナもギルドに加入OKだ。メルフィナはどうする?」
最高権力者ギルドマスターミラベルさんがOKを出した。シーはこれで次も大丈夫になった。あとはメルだが……
「どう、とは?」
「アレクは、冒険者組合証とハンターライセンス両方持ってたんだよ。ホントはダメなんだけどな」
「何それ、聞いてない」
グリッとこちらに首だけ向けるメル。無表情すぎて怖い。
「……それ昨日、というか一昨日の話だしな」
昨日は……かぴかぴになってたしな。俺のどこにそんな精力があったのか不思議でたまらん。結構いろいろあったと思ったが、あれからまだ2日くらいか……
「まぁメルフィナがばらさなきゃ問題ない。ライセンスあったら、お前も寮に入れるぞ」
……? おかしな言葉が聞こえたな。
「ミラベルさん、寮ってなんすか?」
「ん? 言ってなかったか? ハンターギルドに属するやつは例外なく、寮に入ることになるんだ」
「……聞いてないっすけど」
「今、言ったろ」
ダメだ。話が通じない。
「一応うちのギルドには掟があってな。街中での武装は禁止になってる」
そんな話聞いたことない。ドロシーさんの方を見ると、うんうんと頷いている。どうも普通の話みたいだ。
「何でです?」
「うん。ウチは民間組織なんだ。その辺はわかるよな?」
「はい」
平民が勝手に作った組織だしな。領主様は認めてくれてるみたいだけど。
「民間人が武器をぶら下げて街を歩いてる姿ってどう思う?」
冒険者は一応半官半民みたいに、ある程度国から立場が保証されている。だけど、民間人扱いのハンターが仰々しい武装をぶら下げるのは、あまり良くないだろうと初代が考えたそうだ。
「あえて武装を解除しておくことで、街の人に変な圧力をかけないようにしようという、試みだったそうだぞ。それが今でも続いてるんだ」
ナイフぐらいは持っててもいいが、あくまで武器は相手から出させろよと言い放つミラベルさん。
「それが、寮に入ることとどうつながるんです?」
回りくどすぎるので、直球で聞いた。
「寮かギルドに自分の武装を置いておくんだ。有事の際、騎士・兵士・冒険者・ハンターの順番に出撃することになっている。それは王国法で決まってるんだ」
民間組織が王国法に出てくんのかよ……それだけ戦力として認められてるってことなのか?
「いざって時に、武器を取りに走らなきゃならん。その時間のロスを防ぐために、寮に入ることを強制している。個人的には別に街の宿暮らしでもいいっちゃいいんだけどな。メルフィナだって2人と一緒に居たいんだろ?」
顔を赤くするメル。ん~? 俺と一緒に居たい? そうなんだ、へ~……
ぎゅむっ!
「ぐわっ」
「ふんっ」
メルに足を踏まれた。何しやがんだ……
「今のはアレくんが悪いよ」
まさか、心を読んだというのか……
「あたしも寮に入る」
「よし! 決まりだ! 寮の場所は地図書いてやるよ。ドロシー、頼む」
「はいはい」
メルは決意し、ミラベルさんは丸投げ、ドロシーさんは地図を書いてくれた。
「あ、女将さんに挨拶しなきゃなぁ……」
結構長い間世話になったし、挨拶ぐらいちゃんとしなきゃな。
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