第7話 システィナの本性
2018・10・18 改稿
少しアレクの様子が変だとメルフィナは思った。どのようなと聞かれると少し困るが、強いて言うなら『諦め』、あまり見たくない顔をしていた。
「なかなかひどいことを言うね、君は」
ランドルフは他人事のようにメルフィナに語りかける。
「ひどい事ってどういうことよ?」
「決まっているだろう。仕事をするなら僕たちのほうがいいと、彼の前ではっきり言ったんだ。ショックだったろうね」
言われてメルフィナは気付く。自分の発言は
―――アレクは仕事のパートナーとしては役に立たない
そう言っているも同然と言うことに。
「アンタら、まさか……」
「気づいてないのは君たちだけだったのかな? アレックスが店に入ってきたことにはとっくに気づいてたんだけどね。マルコは?」
「もちろん知ってたよ。……ていうか俺らの席順的に気付かないわけないだろ」
「な……」
出入り口に背を向けて座っていた双子に対し、体面に座っていたランドルフとマルコには、アレクが入店してきたことなど丸わかりであった。アレクが勘違いしたのは、ただ単に目線があってないというだけの話である。
「こんなにうまく誘導できるなんてな。アイツから見たら、お前らはもうアレックスを邪魔に思ってると思われてんじゃねえの?」
ニヤつくマルコを舌打ちしながら無視し、アレクの顔を思い出すメルフィナ。ムリして笑顔を取り繕ったような奇妙な顔をしていた。平然とお金のやり取りをしていたが、その手はふるえていた。「んじゃ。明日な」そう言って顔を正面に向けるまでのわずかな時間に見せた切ない顔。あれが全て、自分がさせていたことに、メルフィナの心は静かに沈んでいった。
「アンタら、趣味悪いね」
唐突に話し出したシスティナに、驚くランドルフとマルコ。
「……ちゃんと喋れるんだね」
「お前ら相手に話す必要を感じなかっただけ」
「言ってくれるじゃないか」
「何を言ってる。お前らみたいなクズと何故話さなければならない」
「……いいのかい? そんなこと言っても?」
「……」
「そういう風に大人しくしていればいい。悪いようにはしない」
「ウソつけよ、クソが」
「……口が悪いのはデフォルトかな?」
「口を開くんじゃねえよ、クズ。耳が腐る」
「……」
姉が、知らずにアレクを傷つけていたことに打ちひしがれている姿を見て、さすがに我慢できなかったシスティナ。言葉の弾丸を次々とランドルフに撃ち込んでいく。
「確かにアタシたちは、アンタに従うしかない。だが勘違いするな。アレクさえ強くなれば、お前たちに従う必要などない」
「……あの男がそこまで強くなると?」
「アタシたちはアレクを信じるしかない。アレクがそこまで来れなければ、アタシたちはアンタらの玩具になるだけだろうさ」
システィナが信じるアレク像が、どうしても結びつかないランドルフたち。
「……アイツがそこまで強くなるってのか?」
「知らん」
「は?」
「分かるわけないだろうが。今現在、アレクはアタシたちよりも等級が低い。だが、アレクはいつも言っていた。『必ず追いつく』と。だったらアタシらはそれを信じるだけだ」
「……ふっ、大した信頼だな」
「当たり前だ。お前らみたいなのと一緒にすんな」
2年間一緒に過ごしたのは伊達ではない。ランドルフたちにしぶしぶ付き合わされているのとはわけが違うのだ。
「……なるほど。なら見せてもらおうじゃないか」
「は?」
何を言っているか分からないという顔をするシスティナ。ある程度気分が復活したのか、メルフィナもランドルフに顔を向ける。
「明日、彼が何をするのか? それを見せてもらおうというのさ」
「意味が分からないんだけど」
「君たちは明日アレックスと一緒に仕事をするんだろう? だったらそこに付いて行くさ。僕たちは明日休みだからね。どこに行こうと自由だ」
「……意味ないと思うけど」
「それは明日分かることさ」
いちいち言うことに腹が立つシスティナだが、彼らを完全に拒絶する理由もないことに舌打ちをする。
「じゃあ、今日はお開きにしようか。オリバーは僕たちが連れて帰るとするよ」
「当たり前だ。そんなデカい奴の面倒見きれるか」
「……」
そう言ってとっとと店を出た双子。もちろん会計はランドルフたち持ちだ。ちなみに双子は晩御飯代を支払ったことはない。普通の人なら、とっくにご飯をおごる気などなくなっているだろう。
システィナが本性を現し、ランドルフたちに対抗していたことに、メルフィナは申し訳なさにうなだれていた。
「……ごめんね、シー。ムリさせて」
「まったくよ、お姉ちゃん。今度からはちゃんとアイツらの相手してよね。会話を交わすことに虫唾が走るわ。……ところで大丈夫?」
システィナからとことん溢れる毒に、苦笑いをしながらメルフィナはそっくりな顔をした妹に返す。
「うん、もう大丈夫よ。久しぶりにアレクと仕事よ。ふさぎ込んでいられないわ」
「そうだね。しょうがないから雑魚っぽいアレクのフォローをしてあげないとね」
「……アンタそろそろ元に戻しなさい、その口調。幾らなんでもひどすぎるわよ。出すなって言ったでしょ」
「……ひどいなぁ、お姉ちゃん。お姉ちゃんがへこんだから、代わりにランドルフに食って掛かってあげたのに」
「だからってアレクをディスる必要がどこにあるのよ」
「……事実なのに」
「信じましょうよ。くだらない男だったら2年も一緒につるむわけないでしょ」
「……アタシは2番でいいからね。お姉ちゃんが1番で」
「なっ、何言ってんのよ! 1番とか2番とか……」
「おやおや、純ですなぁ」
「ふざけんな!」
やいのやいのと言い合いながら帰る双子を待つ明日に、あのような出来事があるとは今この時、メルフィナとシスティナには知る由もなかった。
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