サンド・マメクション(短編小説集)

ポンデ林 順三郎

かわいい女子高生が電車で『君主論』読んでるのかわいい(現代劇)

かわいい女子高生が電車で『君主論』読んでるのかわいい - 1


 仕事をやめて十ヶ月、職業訓練の受講が終わって五ヶ月。訓練所からの再就職の催促も絶えて久しく、転職サービスの契約期間も切れた。果たして、労働とはどういうものだったか。


 好きなこと、やりたいことを仕事にすればいいよ、と言われたものの――好きなことは随分前に好きではなくなったし、やりたいこともなくなった。強いていうなら「死にたい」けれど、特に死ぬ理由もなく、叔母が死んで、甥姪の心に傷を遺すのも忍びない。


 両親は健在で、兄三人は立派に甥姪を育てている。預金口座はしばらく確認していないけれど、多少は貯金もあるはずだし、つつましく暮らせば、あと三十ヶ月は飢えない。多少遊んでも一年はもつ。

 私はひとまず、就活を中断することにした。


「そうだ、旅行いこう」


 そう思い立ったものの、好きなこともない私に、行きたい場所などあるはずもない。

 A4四枚に分割出力した日本地図を壁に貼り、大股三歩下がった先から、紙飛行機と縫い針で作った簡易ダーツを投げる。


 的中。愛知県南の沖。海じゃん。


 私は壁に刺さった紙飛行機ダーツを抜き、東海道線の周辺に刺し直した。

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