ants, no thank you - 3
空になったジュースの缶を道すがら、自販機横のゴミ箱に捨てる。
また視線を落として、歩き出す。
缶ジュースのために蟻を売った私を、三年前の中学生の私が知ったら、どう思うだろうか。実際、大した感想は無いだろうな。
それより前の、小学生の私が知ったらどうだろう。少し失望されるかも知れない。
小学生の私なら、缶ジュースを飲み終えた後、缶をひっくり返して、蟻の行列に雫のお裾分けをするくらいはしただろう。
蟻が人類の敵でなかった時代──というのは、違うか。昔から蟻に噛まれる子供はいたし、部屋に置いていたお菓子に蟻が集ることもあった。米袋を蟻に台無しにされた話も聞いたことがある。
三年前は、蟻が私の敵でなかった時代、だ。
同時に、私が蟻の敵でなかった時代。
今の私は、蟻にとって明確な敵だ。缶ジュースと引き換えに、間接的に蟻を虐殺する悪魔。
違うな。
蟻にとって、人間は昔から敵だったのかもしれない。ただ、人間から蟻を敵と見なすだけの武力を持たなかっただけで、蟻はずっと、人間の敵だったんだろう。
不意に、パチリ、と音が響いた。
足元に蟻はいない。
続けてパチ、パチパチ、と火花の散るような音。同時に、頭に爪楊枝を刺されるような感覚。
足元にはコンクリートの地面が広がっているだけ。
周囲をぐるりと見回し、念のため少し視線を上げ、更にもう少し、もう少し首を起こし。
屋外でこんなに高く首を上げたのはいつ以来だろう、そんな考えが頭を過って。私の顔は、ほとんど空を見上げる。
羽蟻の群が、銃口をこちらに向けていた。
パチ、パチとマズルフラッシュが灯る。
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