小村十造の軽挙(現代劇)

小村十造の軽挙 - 1

 小村十造には、世の中の大抵の事象を「発電」に結びつけてしまう悪癖があった。


 特に、何かしら落ち込むような事、不愉快な事、困惑させるような事に出会うと、それを大好きな「発電」の動力に転換する妄想へと逃避する。


 例えばそれは身内の死であったり、夏の暑さであったり、フェースブックで勝手に自分の写真をタグ付けされてアップロードされることであったりした。


「群衆のモッシュ揺動は原子力発電の原理に近い。新宿を水に沈め、水面をタービンで埋めよう」


 小村は特に物理学の知識は持たない。


 しかし、それを補って余りある行動力と、実行力があった。


 一級河川・神田川は荒川水系に属する。


 フォーク・ソングでも有名な神田川だが、小村の推測によれば、神田明神から直接受ける神力により、通常の物理法則を超越した不可思議な現象を起こしやすいという一面もある。


 そもそも神田明神の祭神といえば、蛇や鰐など川を象徴する存在を次々討伐した大国主おおくにぬしにして濁流を表す八千矛神やちほこの名をも持つ大己貴命おおなむちのみこと、水難と関わり深い少彦名命すくなひこなのみこと、災厄を抑え祓う平将門命たいらのまさかどのみことを祭る、対河川災害特化型の三柱だ。


 すなわち、神田明神を破壊することで、荒川水系の莫大な水は全て神田川へと流れ込み、新宿区一帯を都庁の中ほどまでも水没させることが可能なのだ。


 小村は特に神学や史学、地質学の知識も持たないが、そのように考えた。

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