小村十造の軽挙 - 2

「まずはタービンを用意せねばならぬ」


 小村は工学の知識を持たない。


 ゆえに、小村は発電に必要な装置を、何処ぞで仕入れて来なければならなかった。


 そもそもタービンとはなんぞや――というより、発電に必要な装置は「タービン」で合っていたろうか。


 小村は西の生まれであったため、幼少期より、タービンとタージンを言い間違えることが間々あった。


 また、折悪く彼の父方の伯父は妙ちきりんな駄洒落を好む性質たちであり、酔っ払うと脈絡もなく「タービン胸いっぱい」等と放言し、一人笑いをすることすらあった。


 胸いっぱいはタージンですらない、というのは小村の父が指摘していたことだが、では実際は何の胸がいっぱいになるのか、小村はついぞ知ることのないまま育ってきた。


 仮に言葉が「タービン」で合っていたとして――発電に使うのは、本当にタービンだっただろうか?


「何もかも、わからぬ」


 愚にも付かない。馬鹿馬鹿しい。


 小村の気分は深く沈み込んだ。


 この沈み込みを利用して位置エネルギーを得、発電することは、出来まいか。


 その晩、小村はアマゾンで小型のタービンを注文した。

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