奇妙な定食(現代劇)

奇妙な定食

 これは私が、ある定食屋に入った時のことです。


 当時、私は両親と暮らしており、休日には時折三人で外食に出掛けることがありました。

 その日は、父がインターネットで調べた、家から歩いて行ける距離にある定食屋で、ランチを食べようと言うことになったのです。


 事前に下調べしていた、安い割に美味しいと評判の焼肉ランチセット。

 メニューには「ライス大盛り無料」との記載があり、父は大盛りを、私と母は並盛りのままで注文をしました。


「スープはお味噌汁と、中華スープがございますが」


 店員さんが私達にそう確認するので、


「中華スープ三つで」


 と私が答えました。


 店員さんは注文を復唱した後、キッチンの方へと戻ってゆきます。


 料理が揃うまでは、もうしばらくかかる様子。

 何気なく店内を見回していた私は、ふと、店内にある大きな炊飯器に目を留めました。


「あ、ライスおかわり自由なんだね」


 それは客が自由にご飯をよそえる、おかわりコーナー。

 私の言葉に、父はこう返します。


「何だ。なら、大盛りとか並盛りとか、選ぶ意味なかったな」


 母はそんな父に、


「最初から多めに食べるなら、おかわりの手間が無い方がいいでしょう」


 と窘めます。

 どちらが正しいとも言えませんし、私はそんな両親の会話を聞くともなしに聞いていました。


 そうして手持無沙汰に、テーブル席から少し身を乗り出し、おかわりコーナーを覗き込んだのです。

 コーナーというだけあり、そこにはご飯のおかわり用の炊飯器だけでなく、スープのおかわり用の寸胴鍋も置いてありました。


 そこで私は、奇妙な違和感を覚えたのです。


  「スープはお味噌汁と、中華スープがございますが」


 店員さんは、確かにそう言っていたはずです。

 しかし、そこにある鍋の数は1つだけ。


 近眼の私は鞄から眼鏡を取り出し、おかわりコーナーの、鍋の隣にあるポップをよく確認しました。


 すると、そこにはなんと――



『中華風味噌スープ』、の文字。



 お味噌汁とか中華スープとかも、選ぶ意味なかったなあ……!

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