紙谷メイリはヤギに飼われる - 5

「クーデターを起こしたのは、どこかの牧場のヤギひとでさ」


 掃除を終え、餌――ペレットフードだ――の用意も終えたシロキチは、今はメイリの髪を丁寧にブラッシングしている。

 これはメイリが生物部時代にしていたことで、逆の立場になったメイリも最初は嫌がって暴れていたものの、今では「案外気持ちいいかも」と受け入れるようになった。

 飼育動物の生活は、娯楽がないのだ。


「食肉になる所だったとかで。メイリはヤギの肉って食べたことある?」


 センシティブな話題を振るな、と思いつつ、


「メェ」


 と左右に首を振る。


「なら良かった。で、逆に人間を食べてやれって過激派もいたんだけど、ほら、俺ら草食じゃない」


 そうして、人類は食肉となる運命を回避できたらしい。とはいえ、自らの残した施設の労働力、ヤギたちの家畜として、首に縄を付けられた生活を送ることにはなっている。

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