紙谷メイリはヤギに飼われる - 4

 人類への反乱を起こしたヤギ達は、その「文明」と「言葉」を丸ごと奪い取り、元の支配者達は労働家畜として収容所送り。

 ヤギの世話をしていたメイリだけは、飼育されていたヤギの嘆願により、飼育動物として学校に居残ることになった。ウサギやアヒルは、今や同居人である。


 そして、その元・生物部の飼育ヤギだったヤギが、今目の前にいるヤギ。生物部のシロキチだった。


「メェェ」


 何を言おうとしても同じ音になる声で、メイリは不満の意を告げる。


「そう言うなよ。何言ってるのか、判んないけど」


 シロキチはデッキブラシで床を擦り、ホースで水を流す。メイリは端に寄せた寝藁に座り込んで、ウサギを膝に抱き、その作業をぼんやり眺めていた。


「本当はリンカも飼ってあげたかったんだけど、しばらく学校に来てなかったから、どこにいるのか判んなくてさ」


 リンカ、というのは、生物部の先輩だ。三ヶ月も入院と言うのは心配だけど、メイリと先輩は入部の時以外に会話をしたこともなく、一緒に飼われても困っていたかも知れない。それでも、人間が自分しかいない状況よりはマシだろうか。

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