そんな高層ビルは、その他全てを織り込まない。

「高層ビルの窓をゴンドラから拭くのを見る度、思うんだ」


 淀子ていこは窓外の布を見ながら言った。


「ゴンドラに乗らないと拭けない窓って、構造的に欠陥があるんじゃ、って」


 僕は建築家ではないので、何とも言えない。

 たぶん窓を開けるとか、表裏を回転させるとかすると、気圧の問題で部屋の中身が外に吹き飛ばされたりするんじゃないだろうか。


「二重窓にすればいいでしょ。掃除の時は、紙芝居みたいに窓を取り換えるの」


 ふうん、とは思ったけれど、淀子程度が思い付く事なんだから、偉い建築家の先生が思いていない筈もない。


 きっと何か問題があるんだ。

 機構を作るのが面倒臭いとか、お金がかかるとか、窓ガラスが二倍必要だとか。

 それよりは、多少命の危険があっても、多少仕事が雑になっても、ゴンドラから窓を拭く方が都合が良いのだろう。


 例えば、設計段階から全てのビルメンテナンスを織り込んだ高層ビルがあったとする。

 そんな高層ビルは、その他全てを織り込まない。

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