蟻が銃を持って三年(SF現代劇)

ants, no thank you - 1

 小さい頃は、道端の蟻を踏み潰すことを気にして、注意しながら歩いていた記憶がある。確か、中学生の頃までは、間違いなく。

 それはスニーカーの底の滑り止めに蟻の死骸が挟まるのが不愉快だった、というのもあるし、単純に慈悲の心でもあった。

 そんな日々が変わったのは、私自身の内的要因じゃあない。蟻の命より自分の用事を優先するようになったとか、スニーカーをやめてミュールを履くようになったとか、そういうことじゃなく。


 蟻が変わったんだ。蟻が銃を持つようになった。


 足元を見て歩くのは相変わらずだけど、その理由が変わった。蟻を踏まないためじゃなく、不意討ちを避けるため。

 少し離れた道の先からパチ、パチパチ、と線香花火みたいな音が弾けて、「グワッ」「アアアッ」と悲鳴が続く。私は少しだけ視線を上げた。


「蟻だー!!」

「行列から離れてください!」

「おい、誰か市役所呼べ!」

「アリコロリ噴射します、三、二、一、ッ!!」


 蟻が携行できる火器に然程の威力はないと言え、直撃すればエアガンで撃たれるよりは痛い。血も出るし、そこから感染症を患うこともある。小さな子供なら眼に届き、最悪失明してしまうこともある。

 人々は以前と比べ、足元を気にして歩くようになった。


「君、危ないから離れて!」


 自警団らしき脚甲を付けたおじさんに遮られ、足を止める。そんなことしなくても良いのに。


「大丈夫ですよ」


 見てから避けられるので。

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