ヘビのエサ(SF近未来小説)

ヘビのエサ

ピーピーとエラーを告げる電子音に、外していた眼鏡をかけ直した。

焼酎臭い髪が、口に絡んで鬱陶しい。


(んん……またタンパク質が切れてる……)


パネルに表示されたお知らせに従い、3Dプリンタのカバーを開いて、カートリッジを交換する。

買い置きのお徳用パックを、カチッ、と音がするまで押し込む。


カバーを閉めると、機械がウンウン唸って、また動き出した。


「ほーれ、ニョロキチ。餌だぞ」


生成された人工ネズミの尾を摘まんで、ヘビのケージに放り込んだ。


真っ赤な卵形の肉塊に、丸くて大きな耳と尻尾がついたヘビのエサ。

生成してすぐの人工ネズミは、少しの間身をよじるような動きをする。


ニョロキチは警戒心の欠片もない様子で、食い付いた。


「ニョロキチは愚かだなあ」


ほんの数十年前まで、ヘビを飼うには、冷凍庫を凍ったネズミで一杯にする必要があったらしい。

人工ネズミではない、本物のネズミだ。


私には無理だな、と思う。


ヘビも哀れだ。

ワンルームマンションには大きな水槽も置けないから、こんなに狭い場所で、作り物のネズミを食べさせられる。

私に飼われることで、ニョロキチは自由と幸福からサヨナラすることになったのかも知れない。


科学が発展しなければ、私なんかに飼われることもなかったのに。

そうすれば、もっとヘビに理解ある飼い主に当たるか──そもそもヘビ飼育層が今ほど広がらず、繁殖も今ほどの数には至らず、この世に生まれてすらなかったかも。

どうだろう?


満腹でくつろぎ始めたニョロキチを、私は首を傾げながら眺めていた。


前髪が顔に貼り付く。


髪を切りに出よう。

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